どの国のサービス業もワンオペに苦しむのは同じで『どこが働き方改革だ、ふざけるな』と怒ってるのも同じ。米南部を中心に、25の州で1700以上の店舗を持つ24時間ダイナー・ワッフルハウスで起きた深イイ話が、今回の舞台だ。
エプロンない?手伝ってやるよ!→アンタダレ?
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同州シェルビー郡メドウブルックにあるワッフルハウスの支店で働くイーサン・クリプソは、’19年11月、ブラックフライデーの前の深夜、偶然にもワンオペになってしまった。
深夜時間帯は原則として2人入る様になっているのだが、自分勝手に抜けるバイトもいるのが日常茶飯事。なんといってもバーミングハムの治安の悪さは、’60年代から『米国一人種差別のある街』と悪名が高く、今では、米国で指折りの貧困率と、よろしくない悪名を貰っている。
イーサンは、この深夜のバイトが終わったら友達の誕生日パーティーに行くはずだった。
だが、このシフトに『もう1人』はいっていたはずの誰かが、いつの間にか抜けていたので、代わりに誰か来るまで働かなくてはいけない。このままじゃ友達の誕生日パーティーにいけないと、悶々とした気分になっていた。
客もお腹を空かせて不機嫌だが、自分の胃袋も限界だ。あわや客からの注文の食べ物にガっつきそうになるほどめまいがしていた。もうダメだ…。
よろよろしていた、イーサンの目に映ったのが、キッチンに入ってきた、ブルーの服を来た体格のいい謎の男。
『エプロンない?手伝ってやるよ!』『アンタダレ?』
他の店舗でも、同じ事があった?
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このオジサン、エプロンをつけて、ご丁寧に胸元にはネームタグもつけていた。が、そのネームタグは、さっきまで『シフトに入ってたはず』のバイトの男のネームタグ。
『オレは、最初このオジサン来た時に、あ~ダレか代わりのバイトのオッサン来たんだな~と思って安心して、エプロン渡して座っちゃったんだ。もうこれで帰れるわと思ってさ。でもネータグみて、我にかえったんだ、あれ?それってさっきまでいたバイトのヤツじゃないの、アンタダレって?』イーサンは、地元メディアの取材に後日こう答えた。
イーサンは、てきぱきと皿を片づけ、注文をとってくる謎の男に、恐る恐る質問した。
『あのぉ、2つぐらい質問してもいいでしょうかぁ~』『あいよ』『ベンは、どこに行ったか知らない?』『ベン(ネームタグの男)?さっき帰ったよ』『アナタ、このダイナーで働いたことあります?』『ないよ』
イーサンは、驚いたが、背に腹はかえられない。謎の男にホール係を任せ、自分は調理を担当し、この時間帯を乗り切り、後でディレクターに謎の男が現れた旨を報告した。
ワッフルハウスのアラバマ州バーミングハム地区ディレクターで広告部のパット・ワーナーは、原則として2人1組でシフトを組んでいても、従業員の都合でワンオペになることがよくあると、シレっとした顔で地元メディアのインタビューに応えていた。が、その一方でこう答えていた。
『その場合、今回の様にお客さんが手伝うこともあるんです。アトランタでも同じようなことがありましたし。』
ワーナー曰く猛吹雪で食料品店が閉まりお腹を空かせた客たちが、調理場に入って調理を手伝ったというのだ。
『ダイナーは軽食屋ですから、いざとなれば自分の食べたいものは、自分たちで食べるというものでしょうね。』
ワーナー曰く、手伝うのは古くから店を知る客か、週何度も通う常連客。
どのシフトに誰が入っているのか、本部より把握しているケースが殆どだという。
御礼をしたいけど名前が判らない
実は、イーサンの店舗では、謎の男の他にも、別の人が、さりげなく手伝ってくれることがあった。
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『ボクのワンオペが、よっぽど頼りなくみえるのかしれないけど、手伝ってくれる人がいるみたいなんだ。』
カメラに映っているのは、タイトなドレスにハイヒール、おそらくどこかのイベント帰りの女性。この女性はさりげなくカウンターに入ってきてお皿をテーブルに持って行ったり、業務用の手押し車を押して、お客さんの食べ終わったお皿やカップを回収していたりしたという。
ディレクターのワーナーと、従業員のイーサンは、手伝ってくれる人たちに御礼がしたいのだが、そういう人たちは決まって何も言わずに去っていくのだという。
ハリケーンの時も必要最低限のメニューで営業している点から、’11年、アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁(FEMA)から、ウォルマート、ザ・ホーム・デポ、ロウズと共に、災害対策優良会社と認められたこのダイナー。
こういう話は、どこかにあってもおかしくないかもしれない。
Covered: Waffle House customers step in to fill gap at Birmingham restaurant