米国ニューヨークタイムズ(以下NYT)が、2日、トランプ大統領が、不動産事業を営んでいた’90年代に、両親の脱税工作に関わり巨額の贈与を受けていた事を報じた。
トランプ大統領の弁護士、チャールズ・ハーダーは『大統領はこうした問題に一切関与しない。』と反論。トランプの実弟で同じく脱税に関わったとされる弟のロバート・トランプは『収めるべき税金はすべて収めている。』と反論しているが、NYTは綿密かつ莫大な資料をあつめ報道したと表明している。
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トランプ大統領の父・フレッドは、1920年代に不動産業及び建設業を始めたが、当初はフレッドが設計図面を引き、家を建て、小切手を切るのは妻のエリザベスの役目だった。
フレッドは、世界恐慌の前にNYのクウィーンズ一帯にスーパーマーケット付の単身者向けアパートメントを売り出したが、大戦中には海軍向けの社宅、大戦後には中流階級向けの住宅販売で着々と財産を築き上げていった。
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フレッドには大統領になったドナルドを含め5人の子供がいたが、長男のフレッドジュニアは家業になじめずパイロットの道を選んだが、アルコール中毒になり41歳で死亡。トランプが見かけによらず酒もタバコも麻薬にも無縁なのは、長男の存在があるからだ。
その他には長女マリアン(米連邦判事)、次女エリザベス(マンハッタン銀行重役秘書)が居て、次男のドナルドが大統領、三男のロバートは一家の財産管理会社の社長という事だが、この『財産管理会社』もNYTに目をつけられた。
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トランプ大統領の父、フレッドは事業を拡大していく過程で、収めなければいけない税金の問題に直面し、妻と共に思い付いたのが、子供たちを『名義上の従業員』として雇い入れる事だった。その中には、当時まだ3歳だったドナルドも含まれていた。
ドナルドは父・フレッドが持っていたビルのテナントに入るコインランドリーサービスの名義上の従業員となり、当時の年間の収益を『お小遣い』として20万ドル(2300万円)銀行口座に振り込まれていたのである。3歳の右も左もわからない坊やの口座に2300万円の大金が毎年だ。本人が使うわけもなく、親がロックしていたと思うが、そりゃバカなである。
ドナルドだけでなく、両親は息子、娘たち全員に年間20万ドルずつお小遣いを与え脱税。息子、娘たちは自分たちが知らない間に両親の脱税に加担させられ、ドナルドは8歳にして億万長者になってしまった。ボブ・ウッドワードにあんな暴露本を書かれてもおかしくはない。長男が亡くなったのは不幸中の幸いだったかもしれない、汚れた金で生き恥を晒す道を選ばなかったのだから。
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だがその息子や娘に与える『小遣い』の額も年々巨額になってきた事で、問題となっていった。
ドナルドが学生時代の時には、年間100万ドル(1億1500万円)となっていた。ドナルドが海軍時代には軍の寮のオーナー名義がドナルドになっていたのだから、どれだけ、と思うだろう。
それだけでない、ドナルドをはじめとする息子や娘たちは父フレッドから死ぬ直前まで父親から小遣いを貰っていたのだ。その額年間500万ドル(5億7500万円)。
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’12年に民主党の鳩山由紀夫元首相と鳩山邦夫元総務相が母安子さんから月1500万円の資金提供を受けていた時も『こども手当』と皮肉られていた事は記憶に新しい。どの政治家の親も子供には甘いのかと考えると、こんな政治家に投票する気がなくなる。
が、トランプ一家が強かなのが、脱税問題が時効になるまで隠していた事だ。今回の脱税疑惑、刑事上では時効なので告訴することは出来ない。もし刑事告訴出来れば確実に大統領の座から引きずり降ろされるのだが、これを巧く隠した所が、政治家としてだけでなく国内外からも反感を買う要因となっている。
トランプ一家は膨れ上がる息子、娘に対する『贈与』に対し、練った対応策はダミー会社を作る事だった。ニュージャージー州にエアコンのレンタル修理会社をダミー会社として設立し、そこに仮の従業員として登録し、フレッドの娘や息子たちはお小遣いを受け取り続けていたのである。
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しかもこの会社を建てた時にドナルド自身は『慈善事業のようなものだからいいじゃないか』という失言をしたのだから、たまったものではない。
フレッドは’99年に亡くなる前に、自分名義だった8つのビルと1032のアパートを息子と娘名義に分配したが、NYの一等地に立つ7つのビルに関しては贈与税が一切かかっていないという、とんでもないからくりになっているというのだ。
ビルの査定は、エンパイア・ステートビルや、ロックフェラーセンター、ワールドトレードセンターなどを査定した事で知られる有名な不動産鑑定士・Robert Von Anckenが査定していたが、彼によるとフレッドが数年前からアルツハイマーを患っているのを理由にトランプをはじめとした息子、娘が乗り込んできて、現在の不動産価格よりも何億ドルも安く過小評価しろと脅してきたとNYTに告発。
結局売れた事は売れたが、その後彼が同じビルを査定した時に、何倍も値段が跳ね上がったのを目の当たりにした時に『あれは税金逃れだったのか』と判ったという。
フレッドが、息子や娘に譲渡した遺産の総額は10億ドルになると言われていて、本来の課税額は5億5000万ドルだが、兄弟がNYに収めている税金はわずか5%の5220万ドルだ。これはどう考えてもおかしい。
トランプ大統領に至っては受け継いだ不動産事業の総額は、4億1300ドル(470億円)になる。しかも大統領選で『父親に少しの金を借りて自力で財をなしたたたき上げ』というのが、真っ赤なウソという事も判明。
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歴代大統領は選挙戦時に納税証明書を提出すべきなのだが、トランプはこれを拒否、その理由が今回の脱税だった。
100万ドル親から借りてマンハッタンで不動産業を興したというのはウソで、実は父・フレッドから借りたのは1億4000万ドル。しかもこのお金を父親に返してないことが発覚。’68年に22歳で父親の会社に入っている。
NYTは、トランプ一族の事業、基金が提出している納税申告書や、公表されている財務記録、非公開の銀行明細などを独自調査。10万ページになる膨大な資料を厳密に調査した上で、今回の記事の公開に踏み切った。
その手順は『ペンダコンペーパーズ』を公開したワシントン・ポストにも通じるものがある。
サンダース報道官は、一連の報道に対し『数十年前に、内国歳入庁(IRS)が適切に処理しているので、今回の報道は誤解を招く。』としているが、肝心のIRSは一切コメントを公表していない。
NY税務・財務局のジェームス・ガサレ報道官は『適切な調査方法をさぐるのみだ。』としている。
エンパイアー・ステートビルやパレスホテルの経営者だった
不動産の魔女レオナ・ヘルムズリーを倒したのはドナルド・トランプだった。
レオナが不動産業界から撤退するきっかけとなったのは新しい力の台頭というだけでなく、脱税と周囲の悪評があった。これはトランプ大統領にも言えるだろう。
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先日、ニクソン大統領を辞任においやった
ボブ・ウッドワードによる暴露本『FEAR』が出版され、日本でも翻訳が待たれている。
もしもトランプをつぶす候補が現れれば、トランプに未来はないだろう。
この事件刑事上では時効だが、民事では脱税に時効はない。
現役大統領が脱税の罰金刑ともなれば、汚点になるのは間違いないだろう。
Trump Engaged in Suspect Tax Schemes as He Reaped Riches From His Father