季節の変わり目や、夏場、冬場に気を付けたいのが『風邪をこじらせたと思ったら思わぬ大病だった』というケースだ。
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今回は、風をこじらせたと思ったらわずか16日後に直腸がんでなくなった56歳の男性の話である。
幸いにも彼は、亡くなる前、結婚32年つれそった妻の計らいにより、2人の息子と1人の娘が看取りの場に、付き添ってくれた上、彼の趣味と実益を兼ねた仕事が評価された見送りとなった。
ただの風邪をこじらせたと思っていた
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時は、’17年クリスマス前の事。英南西部デヴォン州プリマスに住むトレヴァー・ウォーカーさん(当時57歳)は、風邪を引いた。
トレヴァーさんは健康に自身があり、背も高く健脚。よく食べ、よく呑み、付き合いも多かった。週3回は趣味も兼ねたフットボールの審判をして稼いでいた。
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そんな彼にとって風邪は、寝ればすぐ治るもの。それが二か月ほど咳が止まらなかったのだ。当時彼の住んでいたプリマスでは風邪が大流行し、日本人の様にマスクをし、うがい手洗いを徹底しなければ、街をあるけば誰でも風邪にかかると言われていた。
トレヴァーさんも、審判の仕事の最中にマスクをつけるわけにはいかない。気になったので、’18年1月に重い腰をあげてGP(総合医療医)の所に行くと、10日分の抗生物質を処方された。これで治ると思ったのだった。
『でも私は、あの当時から何となく思っていたんです。シャワーから出てくる主人の姿が日に日にやつれていくのを。それって、ただの風邪しゃないですよね。何故あの時、無理にでも大病院に連れて行かなかったのかと思うんです。』
妻マンディさん(’19年当時52歳)は、当時を振り返り、健康を過信していた夫の状態に気付きながら止められなかったことを悔やんだ。
この時、トレヴァーさんをむしばんでいた病の正体は何だったのか?
GPが診断を間違わなければ救われていたかもしれなかった
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1回目の診断でも咳が止まらなかったトレヴァーさんは、再びGPを訪ね、今度はレントゲン検査を受けた。するとトレヴァーさんの肺に水が溜まっており、明らかに別の病の可能性が疑われた。
胸水が溜まる場合、2種類にわかれ、タンパク質を含む液体(滲出[しんしゅつ]性)か、 水のように透明な液体(漏出[ろうしゅつ]性)かによって、特定できる病名が変わってくる。
心不全や肝硬変は、漏出性胸水の一般的な原因だが、肺炎や、がん、ウイルス感染症は、滲出性胸水が原因となる。
だがこのGPは、トレヴァーさんの胸水結果を無視したのか、検査をしなかったのか、二回目の抗生物質を処方しただけだった。
もしもこの時に、GPがトレヴァーさんの胸水検査を行っていれば、トレヴァーさんは助かったかもしれないのだ。トレヴァーさんが、2回目にGPの元を訪れたのは、’18年1月末。’18年2月に、トレヴァーさんは、歩く事も困難になってしまった。
それでも毎日シャワーを浴び、よろけながらシャワー室から出てくる夫を見て、マンディさんはキレた『貴方、今の姿がどんなものになってるか判る。骨と皮だけなのよ。ただの風邪なわけないじゃない。すぐに大病院で検査を受けるべきよ。』
『たかが風邪なんて思っちゃだめ。夫もそうだったけれど、私の母もそうだった。私の母は夫と同じケースで、今年の5月に亡くなったわ。同じ過ちで亡くなったのに、止められなかった。こんなことがある?』
マンディさんの母ジュリア・ハマコットさんは、’19年5月、カゼをこじらせたと言い張っていたが、肺がんで、71歳で亡くなった。たかが風邪とあまく見てはいけないのだ。
トレヴァーさんは、GPに紹介状を書いて貰い、大病院で生体検査を受ける事に。検査の結果を家で待っていた所、容態が急変し、検査後48時間以内に検査を行った大病院に救急車で搬送された。『搬送された当時は、夫は酸素マスクをつけても自力で息が出来なかった。一気に容態が悪化したのよ。』
検査の結果、トレヴァーさんは末期の直腸がんで手術の施しようがなかった。直腸ガンは広がりが早い上、肺から転移した事が発覚。余命は2週間と宣告された。
『トレヴァーと私は、大声で泣いたわ、あと2週間、精一杯思い出を作って生きようねって。』マンディさんは、2人の息子、娘そして孫を呼び寄せ、トレヴァーさんを看取ることにした。
みんな愛しているよ、それが最後の言葉だった
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トレヴァーさんの最後の日、マンディさんは、長男のルーク君(32歳)、次男のバリー・ジョン君(27歳)、長女のケリーちゃん(26歳)と、2人の孫を看取りにつきあわせた。
酸素ボンベに繋がれ、皆の目を見て、トレヴァーさんが最後に呟いた言葉は『みんな愛しているよ』だった。’18年3月1日、享年56歳。早すぎる死だった。
見送りの日、フットボールの審判だったトレヴァーさんの生前の姿に敬意を表し、出棺の時にホイッスルが鳴らされた。
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夫の死から一年半経ち、マンディさんは、健康に良いから、仲間づくりをしたいからという目的でハードなスポーツをする人や、付き合いを派手にする人に対し『ほどほどにすべき』とアドバイスしている。
その理由は、健康を過信しハードな運動をし、仲間づくりに熱心になりリラックスを忘れた夫は、風邪をこじらせたと思い、ガンの発見が遅れたからだ。『これは夫だけじゃない。全ての趣味に没頭しすぎる人に言えることなの。』
マンディさんは言う。趣味や好きな事の人間関係のために、自分を犠牲にしないで欲しいと。