世界でわずか60人!身の周りに起こった事を全て覚えているHSAM(超記憶現象)って何?


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以前このサイトで、『見た景色をデッサンで再現できる男性』を紹介させて頂いたが、世の中にはそれを上回る人が居る。

自分の身の上に起こった事全てを忘れられずにいる人たちだ。

私たちの脳は、適度に忘れる事で脳の疲労を回復し、新しい事を覚えられるように出来ているのだが、身の周りの事を全て覚えてしまう超記憶(ハイパーサイメシア=略称HSAM)の人たちは、どの様な生活を送っているのだろうか。

身の周りに起こる事を全て記憶し忘れられない

超記憶(HSAM)の症例が最初に報告されたのは、’06年。カリフォルニア大の記憶研究の第一人者・ジェームス・マッカヴの元に、ハンドルネーム・AJと名乗る女性から、あるメールが届いた。

私は、12歳から今まで、自分の身の上で、どこで何が起こったか、全て記憶しています。これをどう説明すれば良いのでしょうか。

興味を持ったマッカヴは、彼女を研究室に呼び、AJに日付を言って、その日何が起こったか尋ね、教授は彼女が喋った出来事が事実と合っているかどうか照合した。


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質問の内容は、彼女のプライベートな事柄だった。『1980年8月29日、何をしていた?』と質問すると、AJは『その日は金曜日で、私は双子の友だちとその家族と一緒にパーム・スプリングスに行ったわ。私は14歳8カ月だった』と即答。これが偶然ではなく、毎回、しかも5年にもわたり続いたのだ。


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幸いにもAJは日記をつけていたので、彼女のプライベートも参考にし、事実を確認。5年に渡り研究を続けた後、マッカヴは、彼女にこんな質問を投げかけてみた。

今まで、この研究室に来た日付を並べてみて

驚く事に、彼女は何の誤差もなく、研究室に来た日付を当てたのである。マッカヴもその他の研究員も、日付は誰も覚えていなかったにも関わらずだった。


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マッカヴ博士は、一連の研究結果を神経心理学ジャーナル『Neurocase』に発表。AJは、その後、本名、ジル・プライスを明かし’09年に『忘れられない脳~記憶の檻に閉じ込められた私~』を上梓した。

プライス曰く『私の中は、2つスクリーンのある映画館の様な感じなの。』という。


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デンゼル・ワシントン主演映画『デジャヴ』のクライマックスで、デンゼル演じる捜査官は、片方の目に、『その場で起きた過去の映像が見える眼鏡』をかけて犯人を追う。

片方の目は『現実』を見て、片方の目では『過去』を見るという設定だ。あれは映画だが、プライスの頭の中では、片方の目で現在の風景を、片方の目で過去の記憶を追う事が、12歳からずっと続いている。

彼女が、本を上梓してから、『自分もHSAMだ』とカミングアウトする人がマッカヴ博士の所を訪ねてきた。その数600人以上と言われたが、世界的に認定されているのは、僅か60人。発生するメカニズムも解明されていない。

プライス自身も、忘れられない脳をもてあまし、誰からも理解されない事に悩んでいる。『記憶力がいいなら勉強は困らないでしょうと言われたわ。でも私は、この障害のせいで人一倍勉強しなければいけなかった、天才ではないもの。』どういう事なのか。

全て覚えている→天才ではない

プライスは、学校の勉強で丸暗記をする事や、教師のいう事を覚えるのには、大変苦労したという。彼女だけではない、HSAMを名乗り出た人に共通するのは、他人から強制されて『覚えろ』と言われたものに対しては全く記憶力は働かないというのだ。

彼らはサヴァン症候群や自閉症と違い、表立ったコミュニケーション障害を生じないために、問題が浮上化しにくい。そのため、HSAMが長年表に取り上げられる事はなかった。

3Dアーティストのニマ・ベイセーは、HSAMをカミングアウトした1人だ。彼はMITラボの一員であるだけでなく、数々の博士号を所得している。そんな彼が、自分の感情を向けられるのが絵だ。彼の抽象画は現在と過去を行き来する彼の混沌とした記憶を彷彿とさせる。


©nimaveiseh.com

研究から13年たち、HSAMを持つ人々に共通する事柄は、以下の通りである事は今の所判明している。

1:記憶は主観的視点で保たれ、日付、年月を基準にしている。
2:匂いなども同時に記憶している場合が多い。
3:患者は強迫神経症外を患う事もある。


©theguardian.com

HSAMを持つTVプロデューサー、ボブ・ペトレラは、食料品を買うと除菌シートで拭いてから戸棚にしまう。彼のおの癖はHSAMになってからだというのだから、何等かの関連性があるのではと、脳神経学者は指摘する。

では、具体的に、彼、彼女らの脳に、HSAMが起こる『きっかけ』となるのは、何だろうか。

日常にある『事件』がきっかけで発症する可能性も

HSAMは、脳の構造の変異で発症したという説もあれば、脳の使い方の違いで発症するのではないかという諸説が流れている。発見されてからまだ15年も経っていない上、患者数も少ないので、研究は遅々として進まない。

この女性、ルイーズ・オーウェンは、’86年の引っ越しの時につらい思いをしたのがきっかけで、それから身の上に起こった事が全て記憶に残る様になったという。

前出のプライスは、’65年生まれで、’19年現在54歳。彼女が、記憶の全てを保つようになったきっかけは、引っ越しだ。
彼女は’74年にテレビ局に勤めていた父の都合で、ニュージャージーからロスに引っ越したのだが、自伝によると彼女の頭の中で『何かがバチンとはじけた』というのだ。

ベイセーが、HSAMになったと確信したのは、’00年12月15日。親友の16歳の誕生パーティーで、人生最初のガールフレンドと知り合った日だった。

ペトレラは、渋滞に巻き込まれた’02年から身の上に起こった全ての事を覚えているという。

だがこれには諸説あり、ケンブリッジ大学の記憶研究者であるマイケル・アンダーソン教授は『私たちが今考えている事や、人生で経験した事の大部分は、80になれば忘れてしまう』と言及している。
その日の何てことない出来事た、LINEを誰に送ったかという事は、早くて数日後には忘れてしまう。それは『その記憶が重要かどうか』頭が振り分けているからだという。

もしかするとHSAMを持つ人の様に『記憶が延々と長持ちする人』は、私たちと記憶の振り分け方が、具体的に違うのかもしれない。

Total recall: the people who never forget

Nimar Veiseh

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