日産自動車(横浜市)の代表取締役会長・カルロス・ゴーン容疑者(64)が、自らの報酬を約50億少なく有価証券報告書に記載した疑いがあるとして、’18年11月19日に、東京地検特捜部に逮捕され、同社会長を辞任に追い込まれた事は記憶に新しい。
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その後挙がった容疑から、脱税、背任など様々な犯罪で検挙する事も可能だったはずだが、なぜ特捜部は、金融商品取引法違反(有価証券報告書虚偽記載)を最初に起訴しようとしたのか。
そして『ゴーンの片腕』とされ、一連の事件の犯罪を指示したとされる同社CEO・グレッグ・ケリー・北米日産CEO(62)は、何故、ゴーン容疑者が逮捕されたその時に手のひらを返そうとしたのか。
100億→50億に、ごまかした役員報酬の裏側
東京地検特捜部によると、ゴーン会長は、ケリーCEOと共謀し、’10年~’14年の5年分の役員報酬を『半額』に減らし有価証券報告書に記載していた。
この5年間のゴーン容疑者の報酬は、99億9800万円と100億近かったのに対し、5年分の有価証券報告書には、49億8700万と半額分しか記載されていなかったのだ。
ゴーン容疑者の高額報酬については、国内だけでなく仏ルノーの株主総会でも批判の的になっていた。実際、ゴーン容疑者の役員報酬は国内企業でもトップクラスだ。
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上記の図は、東京商工リサーチのまとめだが、虚偽の申告を行った理由は以下の通りだ。
1:報酬額の倍近い金額を日産から受け取っていた
2:’17年にCEOを退いても、三菱の役員報酬は受け取っていた
3:仏ルノーからも報酬を受け取っていた
これらの換算すると、1年で20億近く役員報酬を貰っていながら、報告書には、その半額以下しか貰っていないと記載していた事になる。
ゴーン容疑者からしてみれば自分が成果をあげた分だけ報酬は貰うべきという米国の考えを貫こうとしたのだろうが、欧州や日本では、そうはいかない。そこで役員報酬金額の報告を、ごまかすという手段に出た。
ゴーン容疑者の役員報酬が、ここまで巨額になったのは彼に社内での決定権が集中しすぎた事にある。その一つが、日産が、報酬委員会制度を導入していない事だ。
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報酬委員会とは、社外取締役(会社の業務提携先、子会社、孫会社のCEOや役員は除く)が役員報酬を決める制度で、日本では、ソニー、NEC、エーザイなどが導入している。だが日本での導入率は低く未だ3割に満たない。
導入しない企業は、社長、会長の独断で役員報酬を決める事が出来るので、企業としての不透明さが残るのだ。
外国人経営者を役員や社長に招く事は、ゴーン以来珍しい事ではなくなった日本だが、今回の一見で、会社に報酬委員会を設けなければいけない事は、日本企業全体への警告になったはずである。
特捜部が役員報酬に焦点を当て、ゴーン会長を逮捕起訴するにしても、ホワイトカラー犯罪を立件する事は難しかったはずだ。
では、今回の事件、どうやって立件することが出来たのか。
役員の司法取引が、引き金になった
ゴーン容疑者逮捕の引き金となったのは、’16年6月に日本に司法取引制度が導入された事だ。
この頃に、日産の法務やコンプライアンスを担当する専務執行役員、幹部らが、検察OBの弁護士を通じ、東京地検特捜部に取引を持ち掛けてきた。
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『事件になればトップの辞任。可能性は5~10%』
司法取引が導入されたばかりの日本で特捜部の面々は、取引相手となった幹部たちが提示する資料と供述を照らし合わせながら、まさかゴーン会長が容疑者に変わるとは思わなかったのだ。
コストカッター、ミスターFIX ITと呼ばれ、大規模リストラを行った経営者が、まさか、身内にとことん甘い男だったとは知らなかったという結末に捜査側は唖然とした。
ゴーン容疑者は、海外の子会社、孫会社を通じ、ブラジル・リオデジャネイロ、レバノン・ベイルートに、自分の身内の為の不動産を購入。
その建設費、家賃、増改築、維持費は全て日産の経費から出すように、ケリー容疑者から支持があった。それだけではない。経費から出しながら、報告書に記載しないように経理操作しろという支持まで出ていた。
司法取引を特捜部に持ち掛けた日産役員たちは、表向きの帳簿と、経理操作する様に支持された帳簿を特捜部に提出。その額実に50億にのぼった。
自分の身内の不動産やヨットを買う為に、会社から経費という名目で50億を引き出すのである。
『あぶ刑事』で有名になった日産レパード(F31)が生産された日産村上工場を閉鎖したのは、ゴーン容疑者だが、儲けた金で身内の邸宅を買ったのかと言いたくなる日産ユーザー居るだろう。
関係者によると不動産の購入は、社長に就任した’02年から始まっていたのだから計画的であった事が判る。私物化は計画的だとすれば、役員が指をくわえて黙ってみているわけもない。
ゴーン容疑者は、’02年から、オランダにある日産の子会社を通じ、リオデジャネイロの高級マンションを経費で購入し、自分の姉を住まわせていた。
東京都港区の家は、ゴーン容疑者の名義になっているが、レバノン・ベイルートに2件ある家は日産を通じて購入もしくは増改築している事が判明。
日産は、’10年に60億を投資しアムステルダムに『ジャ・キャピタル』という子会社を設立しているが、何をしている会社か社員も知らない人の方が多い。
最初の1年強はゴーン容疑者が社長を務めたこの会社、’12年には、日産の外国人執行役員がつとめている。
ジア・キャピタルは『金を要れるカバンでしかない』とオランダ人ジャーナリストたちは言う。
司法取引に応じた幹部によると、ゴーン容疑者らは、この子会社の下に孫会社にあたるペーパーカンパニー『ハムサ1』、『ハムサ2』を作り、それぞれの登記は、
税金逃れの為に、ドバイやヴァージン諸島にしていたというのだ。
これらの子会社名義でヨットを600万円で購入。
その後、ゴーン容疑者の名義で書き換え、会社の経費で落としていた。
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ゴーン容疑者が少年時代を過ごしたベイルートの自宅は、つい最近改装工事を終えたばかりだというが、ベイルートの有名な建築家に頼み、改装工事をしたという。
三階建てのこの邸宅の価格は500万ドル(5億6000万)だというが、レバノンの国民総所得は日本の4分の1。ありえない話だ。
日産自動車の西川(さいかわ)広人社長は、事件当日記者会見を行い、以前から経費を流用した不正が行われていて、それがゴーン容疑者であった事を告白した。
以前から役員関係者が判っていた事であったにも関わらず、なぜここまで告発が遅れたのか。
業績回復、証拠集めを待っての告発だった可能性も
ゴーン容疑者摘発が遅れたのは、日産そのものが『死に体』から回復するまでに時間がかかったという事が挙げられる。
強引ともとれる経営手腕でゴーンが、日産を復活させたのは、かれこれ15年ほど前。
だがゴーン容疑者は、徹底したコストカットと効率主義を日本で貫いた後は、西川社長をはじめとする執行役員や社長に丸投げしていたと言っても過言ではなかった。
昨年日産で起こった検査不正問題でも、ゴーンは公の場に姿を見せず、西川社長に対応を丸投げ。’16年に燃費不正問題を起こした三菱に出資し、会長の座についた事で、日産をおざなりにしていると、取られても仕方がなかった。
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SBI証券出身で、自動車会社に対する企業分析を30年近く行っている事で知られる遠藤功治氏も『ゴーン効果が日産に出たのは最初の5年。』と述べている。
日産の社内でも、ゴーン就任前と、その後から入社した社員とで、ゴーン容疑者に対する評価は真っ二つに分かれる。
貴重なグループ会社を売却し、ZやGT-Rを、庶民では購入出来ない価格帯の車として復活させ、日産が本来大事にしていた『一億人中流社会向け』の車種やディーラーをすべて無くしてしまった功罪は重い。営業マンからは『売る車がない』とボヤかれても仕方がない。
今回ゴーン容疑者が退陣となった事により、ゴーン容疑者の元妻リタさんが過去にゴーン容疑者から『DVを日常的に受けていた』という噂も再浮上している。
日産は以前大事にしていた個性を活かすべきではないかと思う。
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