米捜査当局が、民主党要人や民主党を支持する著名者に爆弾物の入った小包を郵送した元ストリッパーの男・シーザー・セヨク(56)を逮捕、起訴した事実は記憶に新しい。
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先日も米ペンシルバニア州ピッツバーグのユダヤ人礼拝所で、ヘイトクライムを目的とした銃乱射事件が起き、容疑者のロバート・バウワーズ(46)が逮捕された。
トランプ大統領就任以降、国中で起こるヘイトクライムの嵐は収まる事はない。
セヨク容疑者にしても、バウワーズ容疑者にしても、日本では新聞を読んだり、ニュースに毎日目を通していれば、起こるはずのないニュースだ。それだけ米国は教育格差もあれば、メディア格差もあるという事になる。
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’18年10月末現在、セヨク容疑者が送ったとされる14の郵送爆弾のうち、12の爆弾は郵送先が判っている。
どちらの容疑者も起訴され、最高裁まで裁判が持ち越されされば死刑もしくは終身刑に近い判決が下されるが、周囲の人間はどう思っているのだろうか。
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セヨク容疑者はイタリア系移民で、マイアミの高校時代は全く目立たず大人しく『間違っても犯罪など起こす人物じゃなかったし優しかった』と同級生は口をそろえていった。集合写真でも一番後ろ。だが日本でもよくある話だ。目立たない人間が一番危ないという。
’90年代からメンズ・ストリッパーとして場数を踏んだものの、繊細でもなく、女性を喜ばせようともせず、自己中。おまけに嫉妬深く、仲間意識もない暴力的で、ビジネス手腕もないセヨクは皆から嫌われたいたと、かつての同僚は語る。
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’90年代に彼のいるストリップバーとコラボしたオハイホ州のプロモーターの、トニー・バレンタインはこう語る。
『あいつと仲がいいのはお袋さんだけじゃないのかな?イタリア系の男にとってマンマは世界が敵になっても味方だからね。セヨクは、何をやるにしても、しくじり続けている。人の身になって考えないヤツだ。本当はプロレスラーになりたかったのだけど、レスラーになるほど強くなかった。だからストリッパーになって、女にモテてて金儲けをしようとした。ストリッパーだって蓋をあけりゃぁ厳しい商売で、みんな副業してるってのにね。考えが甘すぎる奴なんだよ。』
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セヨクはストリップ業に失敗した後、『マジックマイク』の舞台にもなったフロリダのパームビーチでDJとして働いたがわずか2か月でやめている。
彼がデビューした時から、事業を起こすまでのクサレ縁だったというアフリカ系アメリカ人の同僚のデヴィット・クロスビーは、セヨクは嫉妬深く意地悪で、同僚たちも避けていたという。
『あいつには才能はないんだよ。思いやりもないし、色気もない。女性に夢を与えるストリッパーって仕事は全く向いてないのに、モテると思ってのめりこんだ。なのに同僚たちに対する猛烈な嫉妬や嫌がらせは度を越していたんだ。』
大箱のストリップクラブになるとバンに乗ってツアーをする事もあるのだから、団結力や仲間意識も必要だというのに、セヨクはことごとく輪を乱した。Dailymail誌の取材によると、セヨクは客からの評判の悪さで出番を減らされていたにも関わらず、他の同僚たちへの嫌がらせを続けていたという。
ショーに出演する同僚たちの衣装を破く、ブーツの中にツナ缶の開けた蓋を入れてケガをさせる、これなら日常茶飯事で、酷いものになるとHIVに感染した血液を同僚に注射しようとしたという。
ストリッパーは、ボディビルダーやダンサー、芸術家を本業としながらも本業では食べて行けずストリッパーに流れていくものも多い。彼らは常に職業差別を受けて生きているとデヴィットは語る。
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セヨクは筋トレジムとして有名なゴールドジムで鍛えていたらしいが、180kgで三桁の体重という相撲取りの様な大柄な体格と粗野な性格で常に周りの同僚を脅していたというのだ。米国には相撲のような『暴力は我慢してナンボのものという』暗黙の了解な文化はない。なのになぜ彼らは、セヨクの様な人間を黙認していたのか。
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『セヨクを仲間にしていた理由?あいつが人種差別主義者でも政治にうるさいのでも、セクシャルマイノリティを攻撃するヤツでもなかったからさ。オツムが少々悪いからテンションが安定しないだけだとみんな思ってた。』
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だがセヨクがトランプの集会の話をしだした時や、同僚を貶める為に、HIV感染の血だと血液の入ったシリンジを振り回していた時に、気づけばよかったのかもしれないと、デヴィットは語る。
’00年半ば、セヨクは『Men of Steel』と『American Hunk』というマッチョ系を売りにしたストリップバーの経営に乗り出し、自分もダンサー出演していた。
ストリップで全米ツアーに乗り出してもセヨクの所に女性は寄ってこないさまをデヴィットは傍で見ていた。
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『あいつがフロアに出た途端、女性が興ざめしてしまうんだ。せっかくオレたちが盛り上げてもね。で、客席にドカっと居座って、オレ様をチヤホヤしてくれよと言わんがばかりに威張りちらす。同僚に対してもそうだ。ちょっとでも才能があるヤツをみつければ嫌がらせ。これじゃどうしようもない。』
セヨクは自分になびかない女性客にかみつき歯形がついた女性客の腕をつかみ『キスマークさ』と言いのけたという。この業界ではあからさまなセクハラだ。
そうして彼の元からすべての人間が去っていったが、セヨクは’15年に性懲りもなくストリップバー『MAGA Bomber』を経営。
共同経営者兼ダンサーとして招かれたボディビルダーのジャスティン・ハンバーガーは、今回の騒動だけでなく、借金をして夜逃げしたセヨクに対し『晴天の霹靂だった』と語っている。
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ハンバーガーが、セヨクに声をかけられたのは20代前半の頃。
ストリップダンサーは皆、将来におびえている上、共同経営者を見つけるか、他の事業に乗り出すか、選択を迫られるという。ハンバーガーも例外ではなかった。そんな彼の前に自信ありげに表れたのがセヨクだった。
セヨクは、まだ20代半ばのハンバーガーに、自分は過去に2つのストリップ劇場をやっていたと自信ありげに話し、自らが犯した失態は全く話さなかったという。
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『僕がセヨクの同僚から何か聞いていれば、こんな事にはならかったと思うよ。彼の事を怪しいなと思ったのは、彼から送られてくるメッセンジャーの内容が政治批判まみれになったからだ。』
ハンバーガー曰く、セヨクのメッセンジャーの内容は、トランプ政権になってから政治に対するヘイトクライムまみれになったという。それだけでない。ハンバーガーにたいしても『トランプの政治演説を聞け』とテープを山のように送ってきたのだ。
『政治演説って、僕らの世代だったら動画でチェックする事が出来るじゃないか。なのに今どきテープだよ。この時に気が付いた。トランプ政権は無学な人をターゲットにして憎しみをあおっているんだろうって。』
ハンバーガーは、セヨクを説得する気にもなれず、気が付くとセヨクは1万ドルの借金を残し夜逃げ。
セヨクが、借金を返す為に警備員とお抱え運転手の仕事をしていたと風の噂で聞いたというハンバーガー、その矢先に起きた事件だった。
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誰もがセヨクに批判的だが、彼が借金を追う中で雇った元ピザレストランのオーナー・デボラ・ガーディアンは、こう語る。
『セヨクの行動はすべて憎しみから来てるのよ。政治的関心から来てるのではないわ。あおったトランプが悪いのよ。』
デボラさんは、借金を背負い無職だったセヨクを雇ったが、彼はまじめに働き、客からのクレームもなにもなかったという。『トランプを支持する白人の還暦前の人を思い出して頂戴。彼らはあまり学はないだろうけど、よく働くし、働けば将来は約束されると思っている。あれなのよ。』
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デボラさんがセヨクを雇った当時、セヨクは白のバンに寝泊まりし、バンのガラスにはトランプの写真がびっしり貼られ、車の中は食べ散らかしたジャンクフードとサプリメント、脱ぎ散らかした洋服が散乱していたという。
『セヨクは、ゲイもユダヤ人も金持ちも嫌いという、今のトランプを支持する人の典型よ。トランプは反省すべきだわ。そんな人に支持されて政権を維持しているのだから。ツイートで反撃してるでしょうけど、アメリカに起こった悪いムーブメントは彼の自己責任でしょう?』
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彼の近所に住んでいる、プロビーチサッカー選手の監督セルジオ・メネデス氏は、最後にセヨクを見かけたのは8月だったという。
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『セヨクは、住む所を取り上げられて今は車で移動してるんだと言ってた。ストリッパー時代は家があったのにどうしたんだ?と聞いたのが最後だったよ。』
近所の人々も助けられなくなった時が、人が犯行に走る時だという。
米国の底辺の恨みを救ったトランプ政権。
中間選挙の最中にツケを払わされる時がくるのかもしれない。