米フロリダに住む25歳の母親が、教会で洗礼を受けた数日後、幼い息子2人を殺し、自分も拳銃自殺するという痛ましい事件が起きた。
自殺を図ったのは、フロリダ州バスコムに住む、エスベティ・サンチェスさん(25)。
©Esbedi Sanchez/Facebook
エスベティさんは、2人の息子が学校から帰ってくるのを待ちぶせし、拳銃で殺し、その直後、自らの命を絶ったと見られている。第一発見者は、エスベティさんの夫のトーマスさんだった。
仕事から帰ってきたトーマスさんは、玄関を開けた途端、信じられない惨状となっているのに凍り付いた。妻と長男のロニー君は息だえていたが、トーマスさんが家についた時点では次男のエンジェル君は、かろうじて息があった。
©Esbedi Sanchez/Facebook
トーマスさんは、瀕死の重傷の次男エンジェル君を、ドクターヘリで、近くのタラハシーの病院まで緊急搬送して貰ったが、その甲斐もなくエンジェル君は搬送先の病院で亡くなった。
エスベティさんが通っていた教会の牧師、ジョン=スミスさんは、
『この様な事が、洗礼直後の信者に起こってしまった事は誠にいたたまれない上、私も信じられない。』と驚きを顕わにしていた。さらに牧師は、こうつけたした、
『彼女は、誰からも好かれ、その性格の良さが現れている美しい女性でした。こんな事をするような人にはとても見えなかったのです。』
だが事件の調査にあたった警察関係者の見解は違うようだ。所轄の刑事であるスコット・エドワードと、ジャクソン・カウンティは、エスベティさんが自殺する前に描き残した遺言ノートがあった事をメディアのインタビューで話している。
『彼女の自殺は、突発的ではなくむしろ計画的。家庭内や自らの過去に拭いきれない問題があったから自らを死に追いやった事が、この遺言から明らかになると思います。』エドワードさんは、そう話している。
その遺言は、エスベティさんの過去、特に長男のロニー君と次男のエンジェル君について書かれたものだった。どうやらロニー君とエンジェル君は、血の繋がらない子供で、しかもトーマスさんの子供ではなかったというのだ。
©Esbedi Sanchez/Facebook
それを勇気を出してエスベティさんはトーマスさんに話したそうだが、トーマスさんは、エスベティさんの過去を受け入れなかったらしい。トーマスさんは息子2人は今まで通り実の息子として育てるが、エスベティさんに対しての不信感を内心募らせていたというのだ。
それに耐えられなかったエスベティさんは、今月1日、子供たちと共に教会で洗礼を受け、教会を心のよりどころにするようになった。だが、ここでも本当の事はいえず、ずっと『善き人』を演じるしかなかった。
そして今月の7日、彼女は、2人の息子と共に帰らぬ人となったのだ。
ロニー君とエンジェル君が通っていたマローネ小学校教頭の、ブライアン・ハーディは、
『私たちは、彼女の家族をとても愛していました。2人の息子さんも、とてもいい子でした。ご両親もよく2人のお子さんと手を繋いで歩いているのを見かけましたし、どこから見ても理想的なご家族に見えたのに…。』と言葉を詰まらせた。
周りにいる誰もが気が付かないで起きたといったといっても過言ではない事件だったのだ。
バプテストは英国プロテスタントの一教で、個人の良心の自由を尊重するキリスト教の一派。
教会の立場は、各個教会が自主独立の主体で、教会間のいかなる支配関係も認めず、牧師と信者の立場が平等である事から、プロテスタントの中でも穏健派と見なされている。
だが南部バプテストの場合は穏健と言えるかどうかと言われれば別だ。南部は、奴隷所有者を支持する立場で1845年に設立。
’12年に、南部バプテストは、テキサス州アーリントンの同連盟の黒人牧師であるドワイト・マックシック氏を選出したが、マックシック氏は、信徒の2割が有色人種なのに、連盟認可の各神学校の校長たちが皆白人というのはおかしいと声を荒げた。
やっと今年6月に、創立以来初となる、黒人牧師が牧師会議の議長に選ばれる事になったという辺り、まだまだ人種に対しては差別が続いている。
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本国の信者の有名人信者もキング牧師以外は、今に至るまで全て白人である事は拒めない。
信者数も1600万人と、米国プロテスタント系キリスト教の最大教派である上、聖書原典に書かれている事が全てと捉える事から、キリスト右派、キリスト教原理主義と呼ばれている。
近年ではジミー・カーター元大統領の様に、キリスト教原理主義と化した南部バプテストから脱退する政治家も出てきている。
その理由は、聖書にあるパウロ書簡の中にある男尊女卑の記述を何とも思わない南部独特の保守的でご都合主義な風潮に、本当の信仰の自由を見いだせなかったのかもしれない。
映画『夜にいきる』では、フロリダ・タンパでカジノを建設しようとする、北部出身の主人公のマフィア(ベン・アフレック)が、女優の夢に破れ宗教右派の活動家となった地元警察署長の娘ロレッタ(エル・ファニング)の命がけの抵抗に遭い、計画を頓挫させる様と似ている。
今回の事件は、まさにこの映画の1シーンを思い出させずにはいられない。
もし、トーマスさんがエスベティさんの心の悲鳴を受け止めていれば、この様な悲劇は未然に防げていたのではないだろうか。