2020年度のアカデミー賞は、最有力候補とされていた『1917 命をかけた伝令』や『ジョーカー』を出し抜き『パラサイト 半地下の家族』となった。
外国語映画の作品賞受賞は初めてで、作品賞、監督賞、脚本賞、外国語映画賞と4部門総ナメとなった事態に、映画業界は騒然となった。
パラサイト 半地下の家族って?
’97年のIMF通貨危機により、韓国のノンバンクは営業停止になり、企業の倒産が相次ぎ、失業者が増え、格差社会が広がりを見せた韓国を舞台にしている。
通貨危機によりタクシー会社をクビになり、台湾カステラ、フライドチキン屋をやっても失敗しても、その日ぐらしの一家の主キム・ギデグ(ソン・ガンホ)は家族と共に半地下の汚い家に住んでいた。
©CJ ENM/bitters.co.jp
大雨が降れば浸水し、行政がDDTで消毒にくれば、家にDDTの粉が入り込む。元ハンマー投げメダリストだった母チュンスクは、甲斐性もない夫にあきれ果てていた。
息子のギウ(チェ・ウシク)は大学に落ち続け、妹のギジョン(パク・ソダム)も、美術の素養はあるのに美大には受からず二人とも予備校に通うお金もない。
宅配ピザの箱作りの内職で糊口を凌ぐ一家だったが、ギウはエリート大学生ミニョク(パク・ソジュン)から自分が留学している間、家庭教師の代わりを務めてほしいと言われ引き受ける事にした。
ギウはギジョンに頼み大学卒業証明書を偽造してもらいIT社長のパク家の娘ダヘ(チョン・ジソ)の家庭教師として面接に行く。
社長の妻ヨンギョ(チョ・ヨジョン)は世間知らずのお嬢様で、ギウがギジョンを美術教師として雇ってほしいというと二つ返事で承諾。ギジョンは、ダヘの弟ダソン(チョン・ヒョンジュン)の家庭教師として雇われる事に。
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その後もキム家は、パク家のお抱え運転手にセクハラ疑惑を着せクビにし、父親のギデクを雇わせ、古くから居る家政婦ムングァン(イ・ジョンウン)の桃アレルギーを感染病に見せ追い出してしまう。
パク家は息子ダソンの誕生祝いで、キャンプに出掛け、その間キム一家は豪邸で好き放題する事に。
だが家政婦だったムングァンが急に戻ってきた。彼女が戻ってきた理由は、4年もの間、地下室に幽閉していた夫に逢う為だった。
ムングァンは4人が家族だった証拠写真を撮り、ヨンギョに送るとチュンスクを脅迫するが、チュンスクはムングァンを階段から突き落とし、殺してしまう。
外は大雨になり、パク一家が帰ってくる事になり、キム一家は散らかした家の中を全力で片づけ、家に帰ると、家は首まで水に浸かるほど浸水していた。
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翌日、パク一家のある高台では、何事もなかったかのように、ダソンの誕生日パーティーが開かれ、キム一家は『手伝い』として呼ばれることになった。
招待客ではなく『手伝い』として呼ばれ、家に隠れている間は『どこから臭いにおいがする』と言われ、既に苛立ちが頂点に来ていたキム一家。
ダソンは小さい頃、夜中にケーキを食べようと起きた時、地下に居たムングァンの夫を偶然みてしまいそれがトラウマになり誕生日が怖くなってしまった。
が、また悲劇が起こってしまう。
ダソンの誕生日に、ムングァンの夫が地下から現れ、今度はキム一家の長女ギジョンをダソンの目の前で殺してしまう。チュンスクはムングァンの夫と格闘の末、殺してしまった。
ギテクはパクが『地下の男を目の当たりにして鼻をつまんでいた』ことに怒りを爆発させ、パクを刺し行方不明になってしまう。
キム一家は、貧乏人同士の殺し合いの末、ギウは頭をなぐられ障害を負い、チュンスクは半地下の家でギウの介護をし、残されたパク一家に幸せは訪れる事はないというものだった。
結局、韓国人がナンバーワンに選んだのは違う映画?
この映画、本国韓国で興行一位だったかというと、そうではない。興行一位だったのは『エクストリーム・ジョブ』で、『パラサイト~』は二位に終わっている。
『エクストリーム~』では、かつてメダリストだったり訳アリの人間が、マトリ(麻薬捜査班)になったものの、全く手柄を挙げられず挙句の果てに、フライドチキン屋で張り込みをする羽目になる。
『パラサイト~』でも資格や努力が何も実らな様を半地下に住むキム一家の目を通して描いていたが、こちらの作品では、メダリストかつマトリでありながら、バカにされる日々を送る刑事たちが、クライマックスで、一発逆転、本領を発揮して、スカっと終わるので、韓国国民の心に希望のともしびを与えたのだろう。
『パラサイト~』がいま1つ国民に支持されなかった理由は、自国が直面している格差を、誇張した形のブラックコメディとはいえ、銀幕でうつしだしたからではないだろうか。
オスカーは『パラサイト~』を選んだかもしれないが、私自身は、韓国人が選んだ『エクストリーム・ジョブ』の方が、後味も良かったと思う。