オスカーレースまで一か月が切ったハリウッド。『ボヘミアン・ラプソディ』もノミネートされているのだが、途中で監督を降板したブライアン・シンガーに新たなスキャンダルが発覚した。今度は事実上の引退に追い込まれそうな致命傷なのだ。
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今回シンガーを性的暴行で告発したのは、ヴィクター・ヴァルトヴィノス(Victor Valdovinos)。
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『僕はシンガーに捨てられた一人。あいつは13歳だった僕をドラッグとアルコール漬けにしてベットに連れ込もうとした。』。告発したのはヴィクターだけではない、今回の彼の告発を受け、次々とシンガーから性的暴行を受け泣き寝入りしていた人間が『Me too』と言い出したのだ。
シンガーが性的暴行で訴えられた裁判と言えば、’14年のマイケル・イーガンの例が記憶に新しい。
イーガンは、今回シンガーを訴えたヴィクターと同じ30代で、駆け出しの俳優だった17の時にシンガーをはじめ、デヴィット・ニューマン(ディズニーTV社長)などハリウッドの重役から性的虐待を受けた上、ドラッグとアルコールの摂取を強要されたとして裁判を起こしていた。
だがシンガーに事件当時のアリバイがあった事や、イーガンが自身の証券取引詐欺で刑事告訴された事もあり、イーガンの弁護を引き受ける弁護人が居なくなった。
この事件はシンガー側がイーガンに訴訟を取り下げる代わりに10万ドル(1000万円)を支払い示談で済ますという不本意な形で終わってしまった。
イーガンは裁判の終焉をメディアに対しこう語っていた『この様に、まずいと思った事に対し金でカタをつけようとする業界の悪しき慣習こそ正していかなければ僕の様な犠牲者はこれから先必ず現れる、事件は解決したと思っていない。』
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今回のヴィクターの一件は、イーガンの様に曖昧なものではない。観念した方がよさそうだ。
ヴィクターは、シンガーと初めて逢った時の事を今でも覚えているという。彼が13歳の時、学校の近くにシンガーは、ブラット・レンフロ主演の『ゴールデン・ボーイ』の撮影に来ていた。シンガーは、お手洗いで用を足しているヴィクターに『そこで映画の撮影をやっているから、エキストラとして出してあげるよ』と声をかけたという。
『ハリウッドの映画監督が町にやってきてエキストラで出してあげるよって声をかけてくれたら子供は舞い上がるよね。僕もその一人だった。お手洗いで声をかけられた時に気付けばよかったのに。』
ヴィクターは、翌日撮影現場に行くと本当にシンガーが監督である事に驚いたが、それからが悪夢の始まりだった。撮影の合間に彼はシンガーから性的虐待を受けていたのだ。
撮影の間、ドラッグと酒を強要され体を触られ、撮影が終わるとヴィクターは捨てられた。それがまだ少年だった彼の心に傷を作ったのは言うまでもない。
上の写真は彼が17の時のものだが、シンガーに捨てられた後の彼は、優等生から転げ落ち、ドラッグとアルコール漬けになり、ガールフレンドを妊娠させ暴力をふるい、ついには前科者になってしまったのだ。
30を過ぎたヴィクターに今は少年時代の面影はないが、彼はシンガーに逢わなければ自分の人生は、良きものだったのではと自問自答するという。
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『シンガーは、捨てていった人々を踏み台にして成功の道を歩んでいったと思う。何故今まで誰も声をあげなかったのか、その事を僕が聞きたい。』ヴィクターの言い分はウソではないだろう。
シンガーはゲイである事をオープンにしている一人だが『影でやっている事の酷さ』については、辣腕の弁護士やハリウッドの有力者の手を使い、とことん握りつぶしてきた一人としても知られている。
ゲイの青年を自宅に招いての乱交パーティは当たり前。Dailymailの取材でも、ただ単にゲイだというだけでパーティに顔を出した17の青年が乱交パーティと知り仰天したという話もあった。
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英国人のアンディと名乗る男性は30代半ば。駆け出しの俳優だった14の時、映像プロデューサーのマーク・コリンズ・レクターに何度もレイプされ、その後シンガーに『まわされた』という。
アンディがシンガーの用意したプライベートジェットに乗りビバリーヒルズの自宅に招かれたのが20年前だった。
『あの頃はまだブラット・レンフロも居た。シンガーはレンフロが居る事が嬉しそうだった。でもレンフロは僕と同じでバイだから、そうでもなさそうだった。そんな事より、シンガーは今までの映画関係者と違う、成功者に見えたんだ、最初はね。』
アンディもまたシンガーに『すてられた』一人だった。アンディは、レンフロは亡くなって伝説になったからいいが、自分には何も残されていないと嘆く。『シンガーに逢った人はこう言うだろうよ。もしもあいつに逢わなかったら人生はぐちゃぐちゃにならなかっただろうって。』
誰かが声をあげて引きずり降ろさなければシンガーは、観念しないだろうというのが犠牲者一同の考えだ。’17年に訴訟を起こしたセサール・サンチェス・グスマン(Cesar Sanchez-Guzman)もその一人だった。
彼は新人俳優だった’03年の17の時、ヨットのスウィートルームの床の上でシンガーに押し倒され、口と肛門に無理やり性器を挿入された上『この事を誰にも言わないやらオレの作品にカメオで出してやってもいい』と言われたという。
しかも『この事を告訴しようが通報しようが誰もお前の言う事なぞ信じない。お前の言い分をねじ伏せる人間をオレは雇っているからだ』と不遜な態度に出られたからだ。
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前出のアンディの後にシンガーのボーイフレンドとなり、5年間関係があったエリックという男性もまたシンガーの犠牲者だが、彼はシンガーの好みを2タイプに判別している。『シンガーは、ただ単に性欲として可愛いと思うタイプか、知的で能力の高い男性がどちらかを好きになる。どっちでも少年である事には変わりはないよ。大人じゃないから問題視されるんだ。』
エリック曰く『性的に魅力』と感じた男性は飽きて捨ててしまうからこそ、犠牲者が出てしまうのだ。『誰でも犠牲者になりたくない。僕も10年以上リハビリを続け、ようやくこの答えを出す事が出来た。この答えがブライアンの犠牲者の救いになればいいと思っている。』
彼は他の犠牲者と同じ様に、アルコールとドラッグを強要され、キャリアを傷つけると脅され、捨てられ、PTSDにかかっている。
’13年から’14の間に、シンガーのボーイフレンドだったというブレット・タイラー・スコペック(Bret Tyer Skopek)はミュージシャンだ。少年の頃からシンガーに目を付けられていた一人で、シンガーに、いいように振り回されるのに愛想がつきたという。
『付き合いはじめの最初はNOBUとかすごいレストレンに連れて行って、どうだオレは成功しているんだと言わんがばかりにふるまってくれるよ。でも裏を返せば強気の小心者でウソつきだ。最近の映画でも最後まで完成させたものはある?丸投げしたものの方が多いよね。有名になったから誰も何もいわないだけでさ。』
シンガーはMADAをキメて、複数の男性と乱交パーティーを開く一方でブレットには、夜中の2時に呼び出す事はあっても、映画のカメオのオファーの話すら持ってこないという女中扱いだったという。
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これらの報道に対し、シンガーの弁護士は、今までの罪状でシンガーが逮捕された事もなければ起訴された事もないと否定。じゃぁ握りつぶしてきたのは誰なのかという事になる。事実イーガンに示談金も渡しているではないか。
シンガー本人はアトランティック誌が、この様な記事を載せている事に嘆いているというが、どうなのだろうか。
シンガーの次のプロジェクトは『コナン・ザ・グレート』のスピンオフ『レッドソニア』だが、ブライアン・シンガー自身、過去に『X-menシリーズ』や『スーパーマンシリーズ』を頓挫させたり、他の監督に丸投げしているという過去があり、監督や製作者としての信用もデビュー当時に比べ落ちているのは拒めない。
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『ボヘミアン・ラプソディ』の降板も体調不良となった親の面倒を看る事がスタジオ側に受け入れられなかったというが、そのうち『本当の事』をいっても、何一つ聞き入れてもらえなくなるのではないだろうか。