ドウェイン・ジョンソンと言っても、ザ・ロックの事ではない。
除草剤『ラウンドアップ』で末期がんとなり、モンサントを相手に訴訟を起こしたカリフォルニア州ソラノ郡ベニシア在住のドウェイン・ジョンソンさん(46)だ。その戦いは、アクションスター顔負けのものとなり、裁判の行方は、全米だけでなく、欧州各国、アラブ諸国も見守るものとなった。
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ジョンソンさんは、カリフォルニア州の学校のグランドキーパーとして働いていたが、’12年から除草剤として『ラウンドアップ』を使う事を指示された。だが徐々に体調が悪くなり、’14年に白血球が関係する非ホジキンリンパ腫と診断され、’16年には末期ガンと診断された。
’16年には働けなくなり、こうなった理由は『ラウンドアップ』を販売している種子大手のモンサントにあるとし、モンサント相手に訴訟を起こす事を決意。
同州は、余命数か月と言われる原告の場合は、裁判を優先させる制度があり、ジョンソンさんは、この制度を利用し、モンサントを提訴する事にした。
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彼の裁判の行方次第で、今後モンサントが、どう動くかが決まると言っても過言ではなかった。
陪審員による審議は、金曜まで、3日間に渡り最終判決の結果ジョンソンさんは勝訴。289ミリオンドル(約300億円)の損害賠償をモンサントから受け取る事となった。
裁判の冒頭陳述は7月6日に始まり、8週間に及んだ、証拠開示は実に複雑な道のりを辿った。
ジョンソンさんの末期がんと、ラウンドアップの主成分グリホサートの発がん性を結び付ける決定的かつ具体的証拠を、公の場につきつけなくてはいけなかったからだ。
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裁判後の記者会見で、ジョンソンさんは、自分を支えてくれた弁護チーム、妻アラセリさん、そして、二人の子供たちに感謝の意を表した。
弁護士のブレント・ウィスナーさんは記者会見で、この裁判はジョンソンさんの奥さんの支えなくして成り立たなかったと語った。『ジョンソンさんの妻アラセリさんは、ジョンソンさんが働けなくなってから、家族を養う為に、2つの仕事を掛け持ちし、一日に14時間働いていました。彼女が一家の大黒柱になったのです。』
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ジョンソンさんは、モンサントを提訴した当時は、余命数か月と言われていたが、彼がモンサントを提訴した事が、ニュースで瞬く間に全米に広まり、彼に骨髄移植を申し出る人が出てきた為、ジョンソンさんは、生きながられる事が出来たという。ブレントさんは、泣き寝入りせずに裁判を起こした事で、命をつなぐこともできたと喜んだ。
モンサントは、法廷で会社を正当化させ裁判を引き延ばす事に躍起になっていたが、ブレントさんは、それよりもジョンソンさんが存命の間に、モンサントに謝罪させ、慰謝料を引き出させる事に終始したという。
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この裁判の陪審員は女性5人、男性7人で行われたが、双方からモンサントに対する不服が最初から、囁かれていた。
裁判官の Suzanne Ramos Bolanosは『法廷でのモンサントの重役は、何としてでもジョンソンさんを追い詰めようと悪意に満ちているのが判った。私たち裁判を公平にみなければいけないものからでも、ありありとそれが伝わってきた。陪審員に伝わるのも無理はない。』と裁判後にコメントしていた。
ラウンドアップがベトナム戦争で使われた枯葉剤を転用したという事は、誰もが知っている。ドキュメンタリー映画『モンサントの不思議な食べ物』でもその事は明らかだ。
ラウンドアップの主成分グリホサートは、植物が作る必須アミノ酸・シキミ酸経路を阻害し、アミノ酸の形成を阻害し、枯れさせる。
モンサントが主張するには、人や家畜にはシキミ酸経路がないので無害だというのだ。だが人や家畜の中にある腸内環境を形成する善玉菌や日和見菌にはシキミ酸経路で必須アミノ酸を構成するものがある。人は肉ばかり食べているのではない。
しかもラウンドアップの影響をうけない腸内環境は悪玉菌だけだというのだから、人体に影響しませんと言い切るのはおかしいのだ。
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EU各国は、’15年にラウンドアップ使用禁止に動き、アラブ諸国も輸入禁止に動いた。先進諸国の中で、ヘラヘラ笑って使い続けているのは日本だけだ。
しかも日本には60種類ものラウンドアップのジェネリックがあるのだから笑い事ではない。ガーデニングをやる時に、一生除草剤を使わないつもりでやらないと、ラウンドアップのお世話になる事になる。
’17年には、WHOの外部機関IARC(国際ガン研究機関)や、米国の国立ガン研究所が、ラウンドアップと急性骨髄白血病(AML)の関連をデータを出して指摘。モンサントは一蹴しようとしたが、11か国の国から、17人の専門家が出した結果にケチをつける事は許されなかった。
さらにフランスでは、1700人の医師による連合で、モンサントの一層攻撃が始まり、全米でも環境保護団体による一層攻撃がはじまった。
今年の5月7日には、米コロンビア州高等裁判所で民間団体がラウンドアップの安全だという宣伝が虚偽だとして告発。モンサントは反発したが、裁判所は民間団体の訴えを受理していた。
そんな中、起こったのがジョンソンさんの裁判。世界中がその行方を見守ったはずだ。
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米国環境団体のトップ、ケン・クックはジョンソンさんの勝利をたたえ、こうコメントしている。
『モンサントの息のかかったお役人が、ラウンドアップの発がん性を長い間隠していたにも関わらず、こうして公の場で、長年の失態を明かした事が素晴らしい。ジョンソンさんは、身を挺してモンサントの商品がいかに危険であるかを世の人々に示したのだ。』
だが肝心のモンサント社は、往生際が悪い。
ついこの間、独バイエル社との提携にこぎつけてイメージアップしたというだけあり、今回の訴訟を快く思ってないようだ。それだけでなく『金で片づけてやったんだ』という意図がみえかくれする。
モンサントの副社長Scott Partridgeは、今回の一件に対し『ジョンソン氏には大変申し訳ない事をしたと心からお詫びする。』とした上で、こう言った。
『40年に及ぶラウンドアップの実績は、ゆるぎないものであり、800もの安全実験証明の元に商品化されている。今回の訴訟でモンサント社のイメージが損なわれることはないはずだ。』たいした自信である。
ジョンソンさんが、使用していたのは『ラウンドアップ』のジェネリックである『レンジャープロ』だが有効成分は同じ、グリホサートだ。
ジョンソンさんの弁護士の一人、Timothy LitzenburgがDaily Mail誌の取材に答えた所によると、ジョンソンさんは、’14年にモンサント社に使用していて、体の具合がおかしくなったと消費者センターに訴えていたという。
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健康的被害がすでにモンサントに届いていたにも関わらず、握りつぶしたという点においては、
ジョンソン&ジョンソンのタルカムパウダー訴訟と似ているだろう。
今後、この裁判がどの様な影響を及ぼすのか、動向を見守りたい。
Updated Ag Health Study of Glyphosate and Cancer
US Judge Gives Green Light to Misleading Roundup Label Lawsuit against Monsanto