世界に16人しか居ない先天性難病・ミトコンドリアDNA枯渇症候群(以下MDS)のチャーリー君。
彼は、フランシスコ法王の病院で治療を受ける事になるというのだ。
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英国の郵便局員クリス・ガードさん(32)と、コニー・イェーツさん(31)の間に、昨年8月一人息子として生まれてきたチャーリー君は、未だ目も見えず、耳も聞こえず、自分で息をする事も出来ない。
そうなったとしても、この世に生を受けてきた以上意味があると信じ、2人は、英国の病院すら敵に回し、チャーリー君の命を今日まで繋いできた。
『フランシスコ法王は、法王である以前に、本当の意味で弱い者の味方であり、ファミリーマンなのだと思う。私たちが、どれだけ苦しい戦いを強いられてきているのか。法王は言わなくても判る人なのだと思うわ。』夫妻は感動していた。
チャーリー君が産まれ、延命治療の権限を握る英グレート・オーモンド・ストリート病院の専門医らは、生存率が低い上、重度の障害の残る難病であることから、チャーリー君の生命維持装置を外すことを合法性に認めるよう裁判を起こしていた。
前回の記事は、チャーリー君に、この判決が下されるまでの話だったが、今年4月11日開かれた裁判では英国の病院側が勝訴。
不服としたチャーリー君の両親は、英高等法院を相手取りチャーリー君の世界に珍しい難病であることから、緊急の暫定処置を欧州人権裁判所(以下ECHR)に申し立てしていた。
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申し立ての期限の6月半ばまで、正式にチャーリー君の治療を引き受けてくれる候補者がいなければ、チャーリー君は、治療の権限を握るグレート・オーモンド・ストリート病院の専門医の言い分に従わなくてはいけなかった。
両親は、チャーリー君を米国に連れていき、MDSの治験を受けさせる事を希望し、治験資金としてクラウドファンディングで120万ポンド(約1億6000万円)あつめていた。
クラウドファンディングで資金を募り米国で治療を受ける件についてトランプ大統領は、『チャーリー君の様な難病の子供が救われないのは、いたたまれない。国はこの様な子供の為に医療費を惜しむべきではない。』と何を今更な事を言い出した。実際に米国には、会社の加入する保険レベルが一つ下がっただけで、娘が心臓病の手術を受けられない、というケースもあるというのに。
英国のメイ首相は別の意味でシビアで、チャーリー君の例を、一旦許してしまうと、今後も難病の子供たちの親に裁判を起こされるのではないかと、要らぬ心配をしている。
何よりも、遺伝子学の専門家のRobert Winstonは、チャーリー君の一件を楽観視するのは、まだ早いといい、トランプ大統領のツイートは一番アテにならず、自分で呼吸も出来ない赤ちゃんの延命を安易に考えるものではないと警告する。
『延命治療に望みをかけているというのが、この病でいい方向に命が伸びるという事はない。死ぬ時は残念ながら親御さんの方が苦しむ事になる。英国の病院の判断はあながち間違っているとはいえないんだよ。』
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コニーとクリスがここまでチャーリー君の治療に必死になるには前例がある。
2014年、英国在住のアシャイア・キング君(当時5歳)は小児脳腫瘍が見つかり、両親は代替療法を求め最初はプラハへ行き、次に放射線療法を求め米国に行ったが、逮捕されてしまった。
アシャイア君は、両親の逮捕後、チェコで放射線治療を受け完治。学校に戻る事が出来た。
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また、チャーリー君の行く末に期待をかけている英国の患者もいる。
ボルチモアで政府のコンサルタントとして働くArturito Estopinan(51)の息子、 Art Jrは、チャーリー君と違ったタイプのミトコンドリア枯渇症だ。
『医者の都合で、貴方の運命なんで死んでください?こういう風に手術した方がいいですよだと?子供の命をなんだと思ってるんだと言ってやりたいね。自分の命の在り方を選んだチャーリーに拍手を送りたいよ。』Arturitoさんはこう言う。
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’11年に生まれてきて生後2か月で目で人を追う事しか出来なかったArt Jr君の歩みは遅い。しかし彼は成長する為に、人の何百倍も努力している。
6歳になってようやく、自分の意思で手足を動かせるようになったというのだ。
Art Jrの母親のオルガ(43)は、『チャーリーは治験の実験体でも、見世物でも、病院のいいなりでもないわ。人間なのよ、うちの息子と同じようにね。うちの息子も、呼吸器がないと生きていけない。でもここまでやってこれたの。チャーリーにチャンスが与えられないなんておかしいと思わない?』という。
だが、Art Jrのケースよりも、アシャイアのケースよりも、チャーリーの場合は深刻だ。
うっすらと目をあけて世の中を見ることしかできない赤ちゃんが貴方の子供だとしたら、貴方はどうするだろうか。