カフェの本場フランスで『wifiありませんけど』と言われたら貴方はどうするだろうか。
今やどのカフェもwifiが使えるのは当たり前。それが店の客の回転率を悪くしている原因になっている事は間違いない。
日本もキャリーカートを転がしながら団体でやってくる訪日観光客の団体や、オコチャマ、おばあさんまで、カフェに入るや否やスマホである。タチが悪いとスマホの画面に釘付けで飲み物も注文しない。
ここはお前らがスマホをする場所じゃない。カフェは本来文化発信地だと立ち上がったのが本場おフランス。この写真を見てほしい。
オレンジのフタの上に三つのボタンがあり、胴体は黒。利用料はなんとタダ。これはボタンを押すとレシート状の短編小説や詩が出てくるという自販機なのだ。
内容は何が出てくるか判らない。機械の気まぐれで出てくるので『前の続きが読みたい』と思っても、違うものが出てくるかもしれない。
©2.kqed.org
3種のボタンの内訳は、読了にかかる時間の目安だ。1分、3分、5分と、カップラーメンのノリである。新手のおみくじの様だが、’16年にフランスで登場してから、ブームになっている。
ではこの『小説レシートマシン』誰がどの様な経緯で考えたのだろうか?
コーヒーの自販機を見て思いついた?
この小説自販機、仏南西部・グルノーブルにある『ショートエディション』という会社が、作ったもの。
社の開発グループに居た、イザベルとクエンティンの姉弟、シルヴィア、クリストフの4人は、ある日、コーヒーの自販機の前に立ってこんな事を思いついたらしい。
『この自販機から、短編小説出てきたら面白くない?それも一分で読めるイイ話みたいなの?』
自販機は、世界各国どこの国でも手軽に利用する。日本でも自販機≠タバコや飲料水でない事は。判るはずだ。
昔タバコの自販機として利用されていた自販機が、ディスカウントチケットマシンに代わっている日本の事情を考えると、確かに『自販機で小説も面白いかも』と思ってしまう。最も、昔はエロ本の自販機も日本にあったらしいが。
が、『ショートエディション』の面々が進んでいたのは『自販機みたいな手軽さ』に注目した事だ。自販機そのものを利用した日本とはまた違う。
彼、彼女らは、レシート状に小説や詩を印刷すれば、誰かに読んでもらえるのでは?スマホ三昧の日々から少しづつ逃れられるのでは、と考えたのだ。
そしてお試しで、’16年に置いてみた所、あれよあれとという間に、小説自販機は普及し、今では国内だけで100箇所以上、主に鉄道、メトロ、空港、病院など公共施設に設置される運びになった。
設置費用100万円、月の維持コストは2万円かかるというのに、何故ここまで普及したのだろうか?
米国では、コッポラのカフェが皮切りに
この小説自販機『ショートエディション』は。定期的に小説コンテストを行っており、社が選び出した著名な小説家、編集長をはじめとした審査員だけでなく、登録している20万の読者からオンラインで審査して貰う事で、新人作家発掘、プロデビューに一役買っている。
ショートエディションで執筆している作家は現在14500人を超え、1200万もの小説や詩が、このドラム缶型の自販機から流れているというのだ。
それだけの数ストックされているので、極論毎日カフェに通って読んでもダブる事はないだろう。
社CEOで国際部のロイク・ジラートは、『毎日社宛に山の様に感謝のメールが来ている。こんなに嬉しい事はないから、タダで小説を提供する事が出来るよ。』という。
『ショートエディション』がまだ仏国内でしか事業を拡大していなかった時に、いち早く注目したのが、米サンフランシスコにある『カフェ・ゾエトープ』だ。
©cafezoetrope.com
『ゴットファーザーシリーズ』で名をはせた、フランシス・フォード・コッポラが自身の映画会社の名前を付けたカフェというだけあり、外見はこの通り。
メニューはイタリアンで、コッポラの畑で取れたワインが味わえる。インテリアの装飾も素晴らしく、芸術に重きを置いているので原則スマホ、ノマド厳禁だ。
このホールの真ん中に『ショートエディション』が鎮座している。
時には何も注文せず小説を手に入れる為に、カフェに入ってくる不遜な輩もいるそうだが、カフェの支配人曰く、子連れの予約客に『子供がスマホをやりたいのでwifiは使えませんか』と聞かれるより、よほどマシなのだという。
もっとも支配人曰く『wifiはございませんが、小説はあります』と『ショートエディション』の方を指すらしい。
こうした流れを受け、米国では30台近くが導入されたというショートエディション。少しづつではあるが、カナダ、豪州、オーストラリア、香港、ギニアなどにも設置されるようになった。
では『ショートエディション』が普及しにくい国といえば、逆にどこになるだろう。
中国進出は難関かも?
もし『ショートエディション』が普及しにくい国を挙げるのだとすれば、中国だろう。
中国にはネット最大手がバックアップしたオンライン文庫があり、これは作家発掘や、実生活に繋がるメリットまでも確保している。合理的な中国人の心を掴んでやまないのが、こうしたサービスだ。
その一方で弾圧された思想社会の中で、次々閉店していく本屋に想いを馳せる人々も少なからずいる。もし、売り込むのだとすればこうした人々に売り込むしかない。
©nytimes.com
現在『ショートエディション』は、著作権の切れた本を、様々な地域、文化の人々に読んでもらうべく翻訳作業が進められているという。
日本では、どこを見てもスマホに釘付けの人が多い。もし導入するとすれば銀行の整理券の横や、病院などがいいのではないだろうか。
FRANCE’S BELOVED SHORT STORY DISPENSERS ARE COMING TO AMERICA