痛みも辛さも感じないイタリアの家族・マルシリ症候群の原因は遺伝子


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イタリアに住むマルシリさん一家は骨折しても火傷をしても何も感じない。痛みの感覚が殆どないのだという。これが家族特定の遺伝子疾患として『マルシリ症候群』と名付けられた。

例えば骨折をしても折れた時に打撲程度の痛みは感じるが、その痛みが3分程度で消えてしまうので、骨が折れている事に気付かないのだそうだ。ほっておくと骨が繋がっって完治していたというケースも多々あったらしい。

マルシリさん一家は母親のドメーニカさん(78)を筆頭に、2人の娘エレナさんとレテイシアさん(52)、エレナさんの娘バージニアさん(24)、レテイシアさんの息子ルドヴィコさん(24)、ベルナルド君(21)の6人。

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最初に異変に気付いたのは母親のドメーニカさんだった。

私生活で何度も骨折していたドメーニカさんは『痛くないし、放っておいたら骨が繋がっていた』ので放置していたという。体のあちこちに火傷の跡があるのもしかり『痛くないから』という理由でケロイドにならない程度にしか治療をしていない。

ドメーニカさんがこの症状について、おかしいと思う様になったのは、自分の娘や孫に現れたからだ。別れた旦那には全くこの症状が現れなかったという事は自分からの遺伝という事になる。

娘さんのレテイシアさんは、スキーで骨折し、そのまま滑り続け車を運転して帰ってきた。家族のものが彼女の骨折に気付いた。テニスで肘の骨を折った時も同じだった。

エレナさんも熱い飲み物を飲んで口の中を火傷したのに、全く気付けないでいた。
エレナさんの娘・バージニアさんは氷の上に20分以上手を付けていても、冷たいとも痛いとも感じず、帰ってきたら手が凍傷になっているのに気づいたという。

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レテイシアさんの息子ルドヴィゴ君はサッカーをやっているのだが足首は骨折しても放ったらかしにしてつながるのを待っている。次男のベルナルド君は自転車でこけた時に骨を折っても気が付かなかった。

ケガをしても全く気付かないこの一家に興味を持ったのが、英大学ユニバーシティ・カレッジのジェームス・コックス教授の研究チーム。

彼らは何故マルシリさん家族が痛みを感じなくなったのか調べた所、この家族は痛覚神経の数は普通の人と同じだが、痛みを感知し、それを他の遺伝子に伝達する役割を担う『NFHX2』という遺伝子に異常をきたしているため、痛みや辛さが判らないという事が判明。

コックス教授はこれを『マルシリ症候群』と名付けた。

ではZFHX2が最初からないと動物は痛みを感じないのか。研究チームはネズミを使い実験をしてみた。
するとZFHX2を取り除いたネズミは痛みは感じないが熱に敏感に反応する事が判明。反対にマルシリさんのZFHX2遺伝子を組み込んだネズミは痛みも熱も感じない事が判った。

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コックス博士は、この遺伝子が痛みの軽減にどのように作用しているのか今後も研究を続けるという。
リウマチなど現状の治療では緩和医療しかない慢性的な痛みを伴う病の抜本的治療方法と繋がるかもしれないのだ。

米国のネイビーシールズ出身者の中には、長期にわたり拷問を受けたせいで痛覚が麻痺し、痛みを感じない体になってしまった者もいる彼らが感覚を取り戻す治療に使われるのが諸外国では最初に行われるだろう。
だが、世の中慢性的な痛みがあるというだけで日常生活に制限がかかったり、リハビリをする事が出来ない人たちの為に、これらの技術を応用した治療が保険で賄われる方が先ではないだろうか。

ではマルシリさん一家は、この障害についてどう思ってるかと尋ねた所、治そうとは思ってないらしい。

彼、彼女らにとって、骨が折れても、火傷をしても痛くないのは当たり前。極論、激辛料理を食べても辛くないのも当たり前なのだ。
ある日突然、当たり前を他の人の基準に変えられるのは、家族にとって一番つらい事なのだろう。

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ドメーニカさんは家族の為に朝コーヒーを入れるが、その暖かさも判らないという。
だがコーヒーの香りでコーヒーが美味しいのか、暖かいのか判断しているのだそうだ。

ドメーニカさんは自分の感覚が子供たちに遺伝していると気付いた時から、どの様に味覚や嗅覚を使うべきか、それで痛みを補うべきか子供たちや孫たちに伝えてきた。
だからこそ今まで大事に至らなかったのだ。

『確かに私たちが置かれた状況は、他の人たちからみれば、奇妙に見えると思うし、症状に私たちの家族の名前が付くのも判るわ。遺伝で三世代に及ぶのですもの。でも私たちの中で起こった突然変異が、何か病気を持って長年苦しんでいる人たちが解放される事に役立てば幸いだと思ってるの。』
ドメーニカさんはこう語った。

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