アストンマーチンの工場跡地がある、英国ニューポートパグネルの幹線道路M1で、夜明け前大型事故が起こった。
FedExの大型トラックと、インド人一家を乗せたミニバスが衝突。両方の車体は、この通り無残にへしゃげ、通り過ぎるものの目を覆った。
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不幸中の幸いは、事故が起こったのが夜中の3時14分だったので、交通量が少なく、後続の車が巻き添えにならなかった事。だが、朝の通勤ラッシュまでに事故車を片付ける事は出来ず、M1は稀に見る事なき大渋滞となった。
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この事故で、FedExの大型トラックを運転していた31歳の契約ドライバーと、ミニバスに乗っていた6人の男性と2人の女性が死亡。1人の男性と1人の女性、そして5歳の女の子が重体だという。
地元警察の捜査チーフのヘンリー・パーソンは、高速機動隊と合同捜査の結果、夜中に起こった事故という事もあり、最悪の事態は未然に防げたものの、近隣に住む人々に多大なる迷惑をかけている事を伝えた。
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それもそのはず。これだけの大惨事であるにも関わらず、救急車が現場に到着したのは事故から一時間後。その前に、現場を通りかかったタクシードライバーがいなければ、ミニバスの乗客は全員死んでいたかもしれないのだ。
救急車が現場に到着する前、事故車の後続を走っていたのは、ADHD(発達障碍者)のチャリティ団体に所属するタクシードライバー、ブレッド・スミスさん(36歳)。夜中の幹線道路を走っていたら、先で事故が起きたのだという。
『僕はタクシー・ドライバーだ。職業柄、先の事はある程度予測して走らないと。先で何かが起こったのはすぐに判ったよ。これは戦場だと思った。自分は通り過ぎる事も出来る、それは自由なんだ、でもこの場を通り過ぎてもいいのか?という良心が僕の心の中によぎったんだ。そして事故現場がすぐ目の前に近づいてきた。事故現場に到着した時、僕はもう心に決めていた。救うべきなんだと。』
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私生活では二児の父であるブレッドさんは、つぶれて、へしゃげたばかり、いつ爆発するかもしれないミニバスの中に生存者がいるかもしれないと中を踏み分けて探していった。
『ミニバスの中は血まみれだった、おそらく家族でどこかから出てきたんだろう。降りなさなる様に倒れていて、この世の地獄の様だった。その中からかすかな声が聞こえたんだ。血まみれの床、へしゃげた車体をかき分けていくと、そこに3~5歳ぐらいの女の子がいたんだ。ものもいえない程怯えきっていた。』
一瞬の事故で家族を殺され、目の前が血まみれになり、何も喋れなくなった女の子は目を見開いて震えていた。そんな女の子を見てブラッドさんは、憤りを覚えたという。
『こんな痛ましい事故が起こったというのに何故一番に駆け付けているのが僕なんだ?救急車は?消防車は?遅いじゃないか!真夜中の幹線道路で起きている事故なのに、このままじゃ全員死んでしまう、あの時は本気でそう思ったんだ。』
ブラッドさんは、女の子を自分のジャケットで抱え、ミニバスの中から救い出した。
事故が起こって1時間後、ようやく現地に救急車と消防隊が到着し、ミニバスから新たに生存者2名が救出され、ブラッドさんは女の子を救急隊に引き渡した。
『救急隊は到着した後は、速やかに対処してくれた。僕の対応にたいしても褒めてくれたしね。でも心残りなのは、あの女の子が無事なのか、名前すらも聞いていない。どっちにしても、あの女の子は、今度の事故で親族も両親も失った、その事は変わりないと思うんだ。』
ブラッドさんは、かけがえのない命をすくったにも関わらず、その後の行方が気になる様だった。
地元の警察はミニバスの運転手がFedExの乱暴な運転に巻き込まれたと見ている。
FedExの運転手は、死後の司法解剖の結果、アルコールが検出され、飲酒運転が発覚。死後書類送検される事となった。
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ミニバスの運転手で、死亡したCyriac Jasephさん(53)は、事故が起こる5年前、妻Ancyさんと2人の子供と共に、英国からインドのケララに移住していた。
長年アズダで働いていたが、16台のミニバスを購入し、ミニバスの会社を立ち上げ、事業を軌道にのせた所だったらしい。
Cyriacさんの従弟のSayamonさん(49)は、Cyriacさんは事故が起こる前は普通に夕食を食べて早めに寝たというのだ。
Cyriacさんの親友ベニーさんは『彼はとても働き者で、娘のベニータさんをエリート校に入れる為に必死で働いてお金を貯めていた。9月3日にインドに戻る航空便を予約していたし、事故を起こすような人じゃない。』と断言した。
事件の真相は闇の中だが、M1でミニバスを巻き込んだ事故は、’93年に小学校の研修旅行帰りに、生徒と引率の先生一人が全員死亡した事故以来24年ぶりだ。
一瞬先は闇、誰も真相は判らない。