アリゾナ在住のカイラ・ハンセンさんは、まだ29歳の若さだというのに、全身の激痛で、車を運転する事どころかお皿一つも洗う事もままならない。
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彼女が謎の激痛に悩まされる前は、この通りのアクティブな美しい女性だっただが、今は全く違う。体組織が膨張し、かさぶたがあちこちに出来、顔はむくんでいるのだ。
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カイラさんが、悩まされている謎の病は『複合性局所疼痛(とうつう)症候群=Complex Regional Pain Syndrome、略称=CRPS』だ。
骨折、打撲、捻挫、手術、神経損傷などの外傷が引き金となり、強い痛みが出る病。
その痛みは、負った外傷に不釣り合いかつ長引く痛みなので、医師や周りの人間が『大げさだ』と見逃してしまう場合が多い。かかりつけの整形や接骨院でさえも見逃してしまうというのだから、よほどの事だ。
痛みの性質は、じっとしていても痛む(自発痛)だけでなく、少し触れただけでも痛む(アロデニア)や、ぶつかると死ぬかと思う程激痛が走る(痛覚過敏)があり、症状の度合いにより変わるが、カイラさんは重度となるので、このすべてを背負う三重苦となる。
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一般的に『外傷を負った後に、尋常でない痛みが長々と続いた場合は、この病気を疑え』というのが、ペインクリニックの通説らしいが、ペインクリニックの専門外来にたどり着く前に湿布や、接骨院で済ませている人が多いのも事実だ。
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実際にカイラさんも、この病に罹患するきっかけとなったのは、3年前の交通事故で手にけがを負った時の事だった。
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カイラさんは、BancroftTVのインタビューに、CRPSはいかにして起こるのか、メカニズムを説明した『CRPSは、外傷をきっかけに神経回路を使って、体の弱い所から痛んでいく病気だと思ったらいいと思うわ。』
実際にCRPSに罹患した人でも、体の中で弱っていた所が、片足や、片腕の場合は、そこに半年~1年症状が出て治るが、彼女の場合は全身にでてしまった最悪のケースだったという。
CRPSが全身に出た人の痛みは、ガン患者の非ではない。だからこそCRPSは『自殺病』ともいわれている。何故なら、この病を宣告された人は『長々と痛みと戦うぐらいなら死んだ方がマシだ。』と本当に死んでしまうからだという。
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痛み以外の症状も激しく、皮膚の発赤、蒼白、皮膚の熱感や冷感が襲ってきた結果、皮膚組織や毛細血管が耐えられなくなり、腫脹し破け、関節のが固まりだす。
『発症当時は、体の中に火をつけたガソリンを流し込まれた様に熱かった、体の中に炎を投げ込まれたとはまさにこの事よ。焼き殺してくれと言いたくなったわ!』
彼女曰く、同じCRPSの患者が居て、重病度を1から10までにするならば、自分は10の難病度だと医師から宣告されたという。『でもそれで死んでしまったら、他の自殺者と同じでしょう?』
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彼女は自分の人生で、唯一の救いは何かというと、難病度10だった病が、9に下がりつつあるという事だという。
今は放射線治療をしながら、かさぶた対策のクリームを塗っている彼女。かつてはレストランの統括マネージャーとして忙しく働いていた。
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’15年の暮れ、彼女は自動車事故に巻き込まれ、腕の肘に大きな火傷を負った。その傷は今も痛々しく残っている。その時はまさかこんな長い病との闘いの始まりになるとは思いもしなかったという。
CRPSと宣告された時は、じわじわと恐怖が襲ってきたというカイラさん。これからどうして生きていこうかと不安が日に日に襲ってきた。
『でもこの病が私自身を止められるのかと言えば、そうじゃないわよね。生きている限りは何かしないと。』
彼女は現在、全身の激痛をおして、イタリアンレストランで週に1~2時間、マネージャーとして働いているという。
部屋は職場は常に18~20度に保っておかなくてはいけない。
アリゾナの夏は、日本の最高気温と変わらない。これからの季節はカイラさんにとって命の危険にさらされるからだ。
『家に居たら、筋肉も骨も全部弱って、こんな年で寝たきりになってしまうのよ。それは嫌。だからリハビリついでに働けたらなって思うのよ。』
日本では、40~50代と、10代が罹患する確率が高く、4000人に1人がかかると言われているCRPS。
女性の方が男性の3.4倍罹患する確率が高く、難病指定もされていないという。
カイラは、ペインクリニックで治療の一環としてケタミンを使用しはじめたというが、日本では’07年に麻薬として指定されているものである。
麻薬を使用してでも働き仕事をし続けるべきなのか、そうでないのか、4000人に1人という病が、私たちに下す判断は重い。