一見普通に見えるこの男の子。5歳まで女の子だったと言えば誰もが驚くだろう。
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英ハートフォードシャイン州に住むデクター君(6歳)は、NHSが認めた国内最年少のトランスジェンダー(性同一性障害)の男の子だ。
濃紺のポロシャツに、スキニージーンズ、白のスニーカーを履いてはにかむデクスター君が、元々女の子という風には見えない。
デクター君は、塗装工の父オリーさん(54)と保母のミネマさん(44)の次女タイラちゃんとして生まれた。
顔だちも可愛らしいタイラちゃんに、ミネマさんは愛らしい洋服を着せようとし、お人形さんごっこをさせようとしたが、タイラちゃんはことごとく拒否したという。
『思えばタイラは、女の子らしい事を嫌がる子でした。お人形さん遊びよりも、自動車ごっこが好きでした。でもそんな女の子は沢山いますし、いつかは女の子らしくなると思っていたのです。』とミネマさんは振り返る。
写真を見ても、よちよち歩きのタイラちゃんは、お母さんのミネマさんが着せてくれたピンクのフリルのミニスカートの上に似つかわしくないGジャンを羽織っている。
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タイラちゃんの13歳の姉は、タイラちゃんが男の子っぽい事に疑問を抱かず、タイラちゃんの自動車ごっこにも付き合っていたという。だがタイラちゃんの心の中のわだかまりは消えなかった。
とうとうタイラちゃんは、5歳にして、自分の『性』を捨てることにしたのだ。
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ミネマさん曰く『私たちの次女タイラは、5歳で居なくなったと思っているの。その代わりに6歳になった息子デクスターが家に来たと思う様にするわ。』
ミネマさんがタイラちゃんにデクスターという名前を付けたのは、ミネマさんの初恋の男の子の名前からとったものだ。永遠の初恋は色あせない。だからこそ娘が息子に変わる時、この名前をつけた。
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これから先、デクスター君には様々な試練が待ち構えている。思春期の体の変化と心の変化の矛盾、ドラッグへの誘惑、世間からの偏見、母親のミネマさんは、先々の事を考えると恐ろしいという。
『先々の事を考えると不安で仕方がないわ。でも息子となったわが子を強制的に娘に戻してもいい事はないと思うのよ。』ミネマさんはDaily Mailの取材に対し、こう答えている。
デグスター君の両親の心配はもっともだ。
今年5月、15歳のトランスジェンダーの男の子が、学校で自分を『男性名』で呼んで貰えない事に苦痛を覚え、首吊り自殺をした。
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首吊り自殺をしたのは、英国バッキンガムシャー在住のレオ・イーナリングストン君(享年15歳)。
レオ君は、最年少12歳でホルモン注射をして性転換をしたトランスジェンダーの男の子で元々の名前はリリーという女の子だった。
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レオ君ことリリーちゃんが、自分が少女の格好をしている事に違和感を感じたのは4~5歳頃。
おもちゃも男の子のものが好みで、活動的なリリーちゃんを、ただのお転婆な女の子と勘違いしていた母ハーレイに腹を立てて、髪の毛を剃刀で丸坊主にしてしまった事もあった。
そこまでして両親の理解が得られたリリーちゃんは、体型の変化が出てくる12歳にホルモン注射をする事に。
ようやく自分が望む外見になれたレオ君は、両親、妹デイジーちゃん、兄ロバート君共々幸せな生活を送るはずだった。しかし彼を待ち受けていたのは世間の偏見の目だった。
レオ君の兄ロバート君曰く『弟は心無い人からゲイ呼ばわりされていた。男に興味あるからわざわざ男になったんだろうと、からかわれていたんだ。純粋に自分が産まれた性に疑問を持っていただけなのに。』
レオ君が亡くなった日、父親のマーティンさんが夕食の時間になっても部屋から出てこないレオ君を心配して呼びに行った所、部屋の鍵がかかっていた。鍵をこじあけた所、レオ君が首をつっていた。ロバート君が救急車を呼んだものの、レオ君は既にこの世の人ではなかったのだ。
『学校は16になれば、トランスジェンダーをカミングアウトしてもいいとレオに言っていたんだ。でもレオはそれが許せなかったんだと思う。』ロバート君はレオ君の早すぎる死を悼んだ。ロバート君曰く、弟は学校や世間の冷たい対応にいつも怒りを覚えていたという。それを命をもって報復したという事になるのだ。
にも関わらず、校長のシャロン・クロマインはレオ君の訴えを一蹴してしまった。
レオ君の例をみても判る通り、デグスター君の行く末は、明るいとは言えない。カミングアウトした事は勇気ある決断だが、それがどうでるかは誰も判らないのだ。