’17年11月、ソニーからAI搭載のAIBO(アイボ)が発売された。だが昔のAIBOユーザーはソニーの事業責任者で執行役員の川西氏の発言に眉をひそめた。
『旧型の修理の再開はしない。サポートは終了と考えている。』
旧型のサポート期間は7年間。最終モデルが出たのが12年前。修理の受付は、メーカー側は4年前に終了していた。
元々、新しい家族の一員として迎えてくださいと、メーカー側が売り出した商品。にも関わらずサポートを打ち切るのは矛盾した利益主義の考え方だった。
そこで立ち上がった技術者がいた。ヴィンテージAV機器専門修理会社『ア・ファン』の社長・乗松伸幸さん(62)だ。
『新しいアイボはやるのに古いアイボは知りませんというメーカー側の姿勢はおかしい。アイボには魂が入っていると考えている人がほとんど。部品がないから新しいのに変えてくださいとはいかないのです。』
乗松さんは、どうやってアイボの修理にいきついたのか。
1:介護施設に入居する女性のたっての願いからはじまった
乗松さんの会社に、アイボ修理の依頼が初めて入ったのは、5年前。介護施設に入居予定の高齢者からだったHPで公開すると、アイボを修理してほしいという依頼が殺到する様になったという。
アイボは『修理してほしい』というよりも『治してほしい』という思いがこもった手紙がユーザーから送られてくる。『家族の一員だから』『どんなにお金がかかってもいいので』という思いのこもった手紙だ。その思いは修理というよりも治療に近い。
『ア・ファン』で修理したアイボは、2000体以上になるが、修理には部品が必要だ。その為には古いアイボの『献体』が欠かせない。
アイボ合同葬儀の取材なう。向こうでまた持ち主に可愛がってもらえるといいすなぁ。(^ω^) pic.twitter.com/JyBM9j3p9a
— アカザー (@AKZ161) 2017年6月8日
献体されたアイボは、魂抜きを神社でしてもらってから、解体し、使える部品を徹底的に再利用する。
現在では、全国各地からアイボが献体された為、多種のアイボをよみがえらせる事が可能になった。
ここ数年では、よみがえらせたアイボの健康診断を1年に一回行う『AIBOドック』や、修理したAIBOを大切に育ててもらう『里親制度』も作っている。
そんな乗松さん、アイボの修理をはじめた頃は『10体くれば、1体よみがえれば良い方』と思っていたらしい。
世の中には、ヴィンテージ楽器や家電製品修理店が沢山あるが、何故、乗松さんにアイボ修理の白羽の矢があたったのか。
2:元ソニーの技術者が見せる匠の技
乗松さんは元ソニーの技術者で、リーマンショック後の業績不振で、’11年にソニーを退社。同年に、ソニー時代のOBと共に現在の会社を立ち上げた。
日本の大手家電メーカーの大半、販売終了から10年以内がサポート期限および、旧式部品の補填期限である。バブルの頃に比べ家電そのものも構造的に単純かつ、脆くなり、壊れやすくなっている理由の一つに『壊れたら買い替えてほしい』というメーカーの意図がある。
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そんなメーカーの『使い捨て方針』に疑問を抱いたのが、乗松さんら現場の技術者たちだ。
営利を追求した結果、修理、サービスがおざなりになった事を嘆き、『お金がかかってもいいからきちんと修理して末永くいいものを使いたい』という顧客にターゲットを絞り、会社を立ち上げる事にしたのだ。
乗松さん以外にも、全国各地に在住する、オーディオ、真空管、デジタル関連のスペシャリストが、修理に対応し、時として海外から部品をより寄せ対応してくれる。
修理の際には、まず乗松さんが対応し、修理分野に応じて適切なスペシャリストに仕事が振り分けられ、詳細な打ち合わせ後、見積もりを取った後に、修理が始まるというものである。
カビが付着したVTRデッキ、再生不能のCDプレーヤー、業務用のPC、真空管アンプなど、普通の家電量販店では断られる修理もここでは可能なのである。
私自身、自動巻き時計や、コンバーター万年筆にお世話になっているが、これらのものも、定期的に専門家によるオーバーホールが必要だ。
彼らもまた、修理に取り掛かる前に、じっくりと向き合ってくれて、修理出来る所、できない所を伝えた後に、修理に取り掛かるかどうかを知らせてくれる。
技術のある専門家というのは、かくあるべきだと思う。
3:ソニー本社も動き出したが…
『ア・ファン』に、旧型アイボの修理が集中し、新型アイボの売り上げが伸びない事が判明したソニーは、月額3000円でスマホの回線を使い『アイボの個性』をクラウド上に保存するサービスを行っている。
万が一アイボ本体が壊れても、『個性』を別の本体に移し替えればいいというのが、ソニーの考えだが、それで物事が解決するだろうかというのが、旧型ユーザーの考えだ。
©aibo.sony.jp
旧型ユーザーの間には、業績が悪くなると大手は業績が悪くなるとこの手の商品のサービスを打ち切るというイメージが根強い。それは実際にあったからだ。
新型は、今年1月11日に抽選発売が行われ、瞬く間に売れたが、購入者の内訳が旧型ユーザーだったとは限らない。
旧型ユーザーの首を縦に振らせることが、ソニーの今後の課題となるだろう。