血友病が1年1回の注射で治る?注射代がマジ高杉る件について…


『今までの僕は錆びついたロボットみたいだった。今の僕を例えるとしたら、ガソリン満タンで節々の錆びを落として貰ってサビ止め油をすりこんで貰った感じだね。前とは大違いだよ!』
そう話すのは、二児の子持ちで血友病患者のジェイク・オマーさんだ。

©bartshealth.nhs.uk

ジェイクさんは2歳の時に血友病と診断されてから苦難の連続だった。
元々アクティブな性格なのに、外で遊ぶ事も許されず、病気の為、定期的に因子製剤を打たなくてはいけなかったのだ。

血友病と言うと、ぶつかっただけで出血多量で死んでしまうほど『取り扱い注意』な人を思い浮かべるかもしれない。

だがそれほど重度の血友病患者となると既に関節炎になっている為、体はサポーターだらけで、特定の病院に固まって入院している事が多く、中度~軽度と呼ばれるジェイクさんのような患者の殆どは街中に紛れて暮らしている。
いわゆる『見えない障害で』傍目には特定疾患や難病であると判らない。

ジェイクさんが『画期的』と驚きを隠せなかったのは、聖バーソロミュー病院が血友病患者に行った臨床試験だ。

©bbcsherlock.jp

この病院は『SHERROCK』でお馴染み、ワトソン先生が籍を置く病院としても知られているが、欧州では最も古い歴史ある病院であり、現代では医学進歩にまつわる研究が行われている事でも知られている。

今回この病院で行された臨床試験は血友病の遺伝子治療だった。血友病の遺伝子治療というと、患者の血液幹細胞を取り出す所から始まる。そこはこの病院も同じだが、違ったのは血友病患者が持つ『血を固められない欠損遺伝子』を増幅させて体の中に注入するという大胆なものだった。

血液を固める事が出来ない欠損遺伝子など入れても何の役にも立たないのではないかという考えが覆った結果ともいえる。

この臨床試験を行う為に、現在因子製剤による治療を行っている中度~軽度の血友病患者をランダムに13人集めることになった。その中にジェイクさんが選ばれたのだ。

©BBC

今まで血友病の遺伝子治療は、これぞという決定打が出なかった医学界最大の難問だった。’07年までに日本国内で発見されてきた血友病の遺伝子治療は、

1:異常をもつ遺伝子を修復し正常化する 2:異常な遺伝子は、そのままにしておいて、正常な遺伝子を外部で培養し、染色体に組み入れる 3:正常な遺伝子を持ちなおかつ体内で増幅する(産入システム)をもつ遺伝子を組み込む、という3パターンがあった。

これらは血友病患者の7割を占めるというA型血友病患者に対し行われた治療法だが、A型が足らないと言われている血液凝固因子(8型)はサイズが大きく、遺伝子に組み込む事が困難で、一時的に回復の兆しがみれても、肝障害になるなど免疫不全になるケースも多々あり、最悪の場合、白血病を併発し患者が亡くなる事もあった。

A型に比べ5:1の割合で発症すると言われているB型血友病では、末梢静脈から正常な遺伝子を注射し肝臓に送り込むという臨床実験が’14年に行われた。これは血液凝固因子が肝臓で作られている事、生体肝移植を行った血友病患者が完治した事から逆転の発想で行った実験だった。

その結果、10人のB型血友病患者を対象にした実験では、7人が因子製剤の定期補充が不要になり、残りの3人も因子製剤の補充回数が激減したという成果が出ている。

だが、日本が成果を出せたのはここまでで、血友病患者の治療に関しては欧州各国に比べ15年は遅れていると言われているのが現状だ。


©harleystreetclinic.com
今回、欠損遺伝子を組み込むという画期的実験を行った聖バーソロミュー病院のジョン・パシ教授は『おどろくべき結果だ。これで全ての患者に血友病は治るみこみがある病であると証明できたものだ。』と感慨深くコメントしていた。

ジェイクさんも『この治療法は、僕の体にとてもあってる。続けられるとすれば続けたいね!遺伝子治療は僕たちの未来を変えてくれるよ。理想は僕の子供が思春期を迎える頃に一緒に木登りやサッカーができるようになることだよね。』

が、今回の臨床試験、全員が全員ジェイクさんのような画期的な結果を出す事が出来たのかと聞かれると答えはNOだ。

彼の他に『今までより効果はあった』と答えているのは2人ぐらいで、他は『今までの治療法とあまり変わらない』と答えているのだから。これについては前出のジョン教授も認めている。

『今回の結果は、偉業のスタート地点に過ぎない。過去に遺伝子治療は何度もしくじっているし、実質成功と言えるのは私が見た限り5%しかない。』
教授の目標は臨床試験の場を増やす事。今後は米国、欧州各国、南アメリカと臨床試験の場を増やし患者の数も増員し、より沢山のデータを集める事だ。

WFO(世界血友病連盟)によると、’15年現在、世界の患者数は40万人。大多数の患者は医療機関の乏しい発展途上国に住んでいる。
日本では年間50~60人が発症。’15年5月末の患者数は6040人で、内訳はA型血友病が4986人、B型血友病は1064人となり、国内では特定疾患の1つに認定されている。(H.27年度 血液凝固異常性全国調査報告書より)


©hemophilia-navi.jp
男性の5人に1人が罹患し、かつては王家の病と言われていた血友病。そんな思い込みは捨てるべきだと声を挙げているのが英国血友病患者の会トップのリズ・キャロルさんだ。

©twimg.com

血友病患者の中でも1~2%しか居ないと言われている女性血友病患者である彼女は様々な偏見と闘ってきた。

『今まで色んな治療法が出てきたけれど、私たちの日常生活を楽にしてくれる決定打はなかったわ。因子製剤は1~2週間に一回打たないといけない。それも安静にしていてよ。旅行や子供の遠足とかスポーツをするときはケガや打ち身をしちゃいけないからという理由で因子製剤を前もって打っていかないといけないのよ。この治療法は、こうした煩わしさだけでなく、私たちが抱えているリウマチのような苦しさからも解放してくれるかもしれないわ。』

だが彼女が頭を抱えているのは、治療費だ。
今回の遺伝子治療に使った『一年に一回打てばOK』という遺伝子製剤は£10万するというのだ。一年に一本。金持ちでないと血友病を根本的に治せないという事になる。

『一本の注射代が1500万だなんてバカげている。患者にとったら命綱よ。収入によったら年に150万はおろか15万も出せない人は大勢いるわよね。私の理想?これが100分の1の価格になることかしら。そうすればどれだけの患者が助かると思うの?』

彼女は少しでも多くの患者の医療費負担が減る様に基金を立ち上げている。一方、ジョン教授は臨床に参加する患者や団体を募集する意味を含め『New England Journal of Medicine』に論文を載せるという。
特定疾患を治す為の『最前線での技術革新』は進んでいる。問題はそれが末端の患者まで適切な価格とクオリティで行き届くかどうかだ。

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