今夏公開の『オーシャンズ8』の主要キャストは、スター級の女優が勢ぞろい。その殆どが欧州系女優だった中、辣腕スリ約で中国人ラッパー・オークワフィナ(29)が出演していた事に驚いた人も多いはずだ。
バッド・ラップでは既に名前が知られている彼女。今年は『オーシャンズ~』に出演した事で、映画出演のオファーも今まで以上に舞い込み、待望の新アルバムもリリースする事が出来た。そんな彼女はかつて会社をクビになって、これが失敗したら、どこの就職面接も受けられないという程追い込まれたという。
オークワフィナ(Awkwafina)は、NYクウィーンズ出身のラッパー。本名なノーマ・ラムといい、中国人系移民の両親の元に育てられた。
©cinemacafe.net
彼女がラップを始めたのは、中学生の時『アクアフィナってミネラルウォーターがあるでしょ。あれってヘンな名前だなぁ、って思って、それをもじってオークワフィナって名前でラップを始めたのが15の時。今でもオークワフィナって呼ばれたら誰それっ?って思う時がある。』と言う。
ラッパーとして活躍するまで、彼女はどこにでもいる地味なOLだった。自分で作ったラップを友達にだけ動画にとって見せていた。ラップの世界では黒人がマジョリティ。アジア人は『ダサいからやるな』というレッテルが貼られてしまう。
’12年に発表した『マイ・バキュ』がYoutubeでブレイクする前、彼女は原曲を友人数人に動画で送ったのだが、何故か会社に内容がバレでクビになってしまう。
内容も内容なので、オークワフィナは『これをYoutubeにアップしたら、もうマトモな会社の就職面接は二度と受けられなくなるかも…』と崖っぷちの状態に立たされてアップした。YoutubeのこのオフィシャルMVの現在の再生回数は350万回に届く勢いだ。
©newsweek.com
もう就職面接は受けられないかも…『Oceans8』の中国人ラッパー・オークワフィナの崖っぷち人生とは?
そんな彼女が『オーシャンズ~』への本格的な切符を手にしたのは、Netfrixのドキュメンタリー『バッドラップ』だ。
アジア系4人のラッパーが、いかにして自分たちの地位を築くために戦うかという生き様を描いたもので、韓国系アメリカ人・ダムファンデット、オークワフィナ他、4人のアジア系ラッパーが出演している。
オークワフィナが『マイ・バキュ』をリリースしてヒットした理由を、ダムファンデッドはこのドキュメンタリーで『アジアのポルノ俳優はみかけないが、ポルノ女優だったらみかけるだろ?そこを逆手にとった所は、オークワフィナのいい所さ。』と説く。
今だに欧米の間ではアジア人は『メガネでヲタクで、数字に強くて内気でダサイモ』というステレオタイプが蔓延している。韓国やタイ、中国が映画やドラマで戦略的に格好いい俳優、女優を海外向けに売り出したとしても、ステレオタイプの欧米人は見向きもしない。そんな古い考えの人々と、黒人がマジョリティと考えるギャングスタへの反抗の意味も込めたドキュメンタリーだ。
映画やテレビ製作に情熱を注ぐ俳優や製作者が次々とネットフリックスに拠点を移す中、彼、彼女らの活躍が目に留まらないはずもない。オークワフィナも’12年に『マイ・バキュ』をリリースした当時は、同じ業界からしか注目されなかったが、『バッド・ラップ』に出演した事でハリウッドのエージェントから注目される様になった。
彼女が『オーシャンズ~』の出演オファーを受けたのは昨年。ベットルームでパジャマ姿でゴロゴロしていた所に、エージェントから電話が入ったのだという。
『電話を切った後に、うわぁ、うっそー!と思った!』らしい。
オークワフィナだけではない。どんなベテラン女優でも、思わぬ出演作の依頼が舞い込んでくると『ウソなんでしょ』と思うらしいのだ。
『ミッション:インポッシブル:フォールアウト』でCIA長官の役を演じたアンジェラ・バセットは、『明け方にかかってくる電話なんて間違い電話が多いじゃない』と前置きをして、作品出演オファーの依頼を受けた時の事をメディアに語った。
『朝7時すぎに、エージェントから連絡があって、あのシリーズに出るという話だったから、間違い電話だと思ったのよ。』とバセットは言った。
女優は新人だろうが、ベテランだろうが、信じられない役をもらった時のリアクションというのは、同じだという事だ。
©newsweek.com
オークワフィナも、最近はメジャーな活躍が目立ち『オーシャンズ~』の次は、キャストの9割が中国系というコメディ『クレイジー・リッチー!』が控えている。
『ブラックパンサー』ではアフリカ系アメリカ人の理想を体現する形となったが、『クレイジー~』は中国系の理想を体現する形となった。その事に関して、彼女は自分の存在に責任を感じる様になったという。
『以前は、ノーマ・ラムじゃないわ、オークワフィナって呼んでよって、別物になろうと必死だった。その為に曲を作ってたわ。私一人がしくじれば中国系米国人のイメージが悪くなってしまうと思って突っ走ってたと思う。でも最近私の舞台を見に来てくれた中国人の女の子に『あなたが存在してくれるだけでありがたい』と言われてなんだかホっとしたの。』
『クレイジー~』では、NY生まれの主人公レイチェル(コンスタンス・ウー)の親友役を演じるオークワフィナ。レイチェルはシンガポールに居る華僑のドセレブと結婚する事になり、同じ中国系でも庶民VSドセレブの争いに巻き込まれてしまうというものだ。
『オーシャンズ~』でも『クレイジ~』でも彼女は演技力に優れた名優・女優に囲まれて尻ごみすることがあったらしい。その時に彼女たちが『あなたの演技は素晴らしい、私を信じて』と言ってくれた事がなにより励みになったという。いい加減なお世辞でない事が彼女の支えになったのだ。
’14年に『Yellow Range』をリリースして以来、音楽活動がご無沙汰になっていたオークワフィナ。
ついこの間新曲『イン・フィナ・ウィ・トラスト』をリリース。これは自分自身『どんな曲をだせばいいのか模索していた』事と『周囲の人間は、4年おアルバムを出さなかったらオークワフィナって誰よ?って忘れてるんじゃないの?』というシャレをもじっている。
その証拠に彼女のMVでは、オークワフィナを『X-men:フューチャ・アンド・パスト』に出演していたアジア系女優・ファン・ピンピンと間違える人も出てくるのだ。『世間なんてこんなもんよ』と笑う彼女がそこにいる。
そんな彼女は、金銭感覚についても極めて冷静だ。『今も売れなかった時と同じアパートに住んでいるのよ』
『オーシャンズ~』で、オークワフィナは、自分がクビになった職場のテナントビルの近くで撮影する事になり、ぐるっとテナントビルの周りをまわってみたという。ここまで地位を築いてようやく心の整理がついたという。
『私ってアジアの、おばあちゃんみたいに、お金を使うことに慎重なのよ。今は売れていても、将来どうなるか誰も判らないでしょう?』
そう微笑んだ彼女の未来は明るいかもしれない。
‘Ocean’s 8’ Star Awkwafina on Her Breakout Year and Rising Star Anxiety